熟女猫・小池都知事にやられっぱなしの窮鼠・都議会自民党

政治経済

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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「ホントにダメですね、この連中」政治アナリスト・伊藤惇夫氏)
「なにやってんだ、この人たち」(時事通信・田崎史郎氏)
「ほんとにバカですね」(弁護士・本村健太郎氏)

テレビでここまで言われるのはかなり珍しいと思うのですが、呆れられているのは質問を事前通告せず小池イジメと受け取られた都議会自民党です。
舛添騒動以降、自民党都連および都議会自民党のやることなすこと裏目のようで、今回も政党復活予算を切られたことへの子どもじみた腹いせとか、答弁調整をやめると言った小池都知事への意趣返しだと世間から受け取られているわけで、またも完全に裏目のようです。
その都議会ですが、テレビでは小池さんが自民党議員から連発される質問を必死にメモする姿や、答弁の壇上でオタオタしているような姿がありました。ですが、あの画面は額面どおり真に受けて良いのでしょうか。
もしかして小池さんの困った姿はパフォーマンス含みで、柔道に「支え釣込み足」という足技がありますが、今回も小池さんの「誘い連れ込み足」と言うべき得意技にまんまと足払いをくわされて、自民党が返し技一本を決められたようにも見えるのですが。
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まず、小池さんが一生懸命メモをとる姿も、いささかフェイントのニオイがしませんか? 長時間しかも早口の質問ですが、やってみると質問だけをメモするならさほど難しくはありません。知事でなく事務方が答える質問もたくさんあります。そもそも重要問題だけメモすれば、あとはアドリブ力の高い小池さんならあの程度の嫌がらせを切り返すのはたやすいことだったはずです。
しかし、小池さんはテレビに自分がどう映っているかを百もご承知ですから、自分が必死にメモする姿からは自民党の底意地悪さが浮き立ち、手にするボールペンの安っぽささえ自分の好感度を上げると確信していたのではないでしょうか。
さらに、登壇し、答弁が混乱すると自民党からジジくさいヤジが飛びます。小池さんは「自分の字が読めなくて・・・」などと必死にメモしたことをアピールしつつ何とか答弁しようとします。
この姿をテレビで視れば世間がどういう印象を持つのか、小池さんは百も承知、自民党はまるでわかっていなかったのではないでしょうか。あの程度のことで百戦錬磨の小池さんがあれほどオタオタするものかどうか・・・。
そして小池さんは自民党をチクリと皮肉ります。

「もう少し整理をさせていただいた方が結果としてこの審議がより深いものに、そして意味のあるものになろうかと考えております」

ところが、やがて介護政策の話になるとオタオタぶりはどこへやら、小池さんはやおら声のトーンを下げて、

「ちなみに私も母を自宅で看取りました。地域包括支援システム、さまざま改善して行かなければならない点もございます」

と、さすが元キャスター、情感こめてお答えになる余裕すらお見せになったのです。
この日、都議会自民党はもう一つの作戦を仕掛けていたようです。新聞記事によれば、
「(都議会自民党が)突如、休憩時間のタイミングをずらす不可解なルール変更を行ったのだ。作戦時間を確保して、小池氏を不利にする意図でもあるのか」
しかしこの作戦もはずれたようで、休憩開けの小池答弁は明解で、とりわけ自民党がこぶしを振り上げた政党復活予算の廃止についての説明はわかりやすいものでした。

「都側が編成いたしました予算につきましてはこの議会でご議論していただくわけで、そしてそれを議決していただくという過程の中で議論を行っていただくというのが基本的な関係ではないかと私は考えております」
「何よりも予算の修正権というものを皆様方はお持ちなのでございますし、また必要な予算はそもそもその予算に組み入れていればよいということで、これはどの道府県でもこのような形でやっているわけでございまして」
「復活財源として議会のために留保しておくという仕組みでございますけれども、歴代の知事が都議会に使途を全面的に委ねてきたという意味で白地小切手という言葉を使わせていただきました。」

どうでしょうか、これを聞けばテレビでかなりトンチンカンなことを言っていたコメンテーターの方々も基本的な認識ができるのではないでしょうか。実は地方自治法が定める二元代表制の役割分担について話しているだけなのですが。
都議会が都民の要望を聞くという意味では、地方自治法第百二十四条に、次のような条項があります。

「普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない。」

団体や個人は議員を通じて請願(議員を通じないものは「陳情」)すれば議会が検討し、必要と認めれば議会が知事や関連部局に要望するという制度です。この請願・陳情のリストと検討結果は東京都議会のホームページにすべて公開されています。
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このように法は民意を吸い上げる仕組みも備えています。ですから復活予算を予定して政党はおろか知事がヒアリングをするのも妙な話なのです。今回の知事ヒアリングは予算編成前ですから復活予算編成にはあたりませんし、小池知事がわざわざ出るのも無用のはずですが、すでに回を重ねており、そのパフォーマンス感覚とスピード感はさすがです。
これまでも東京都の自民党はミスの連続でした。そもそも知事選時に出した「都知事選挙における党紀の保持について」という文書では、

 「各級議員(親族等含む)が非推薦の候補を応援した場合は(略)除名等の処分の対象となります」

と親族まで含めた処分案を公式な文書に示しました。これが人権無視であり憲法違反とまで言われ、公党としてこんな文書を平気で公開する無知と時代錯誤ぶりが非難されました。
また、都知事選で小池さんを応援したいわゆる七人の侍の処理に困り、提出を求めたのが「身上書」。身上書とは一般に個人の経歴、趣味、性格などの身の上を書いた書類のことですから、ネット上ではいまさら経歴や趣味を聞いてどうするの、と日本語力の低さを嘲われました。
政党復活予算でも、「復活予算の廃止について(抗議)」という、「(抗議)」とはいささか日本語の熟れない表題の文書を出し、これも一部で顰蹙をかいました。
東京都自民党は、いまや常識や日本語力まで疑われています。そして事ある毎に小池さんとの対立の図式を世間に曝してきましたが、それは自民党の戦略というよりは、そのように小池さんに仕向けられ、打つ手打つ手が小池さんの思うつぼにはまってカウンターパンチを喰らい、いまや負け戦状態になっているのではないでしょうか。その結果が冒頭の3人のキツイお言葉になったのでしょう。
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小池さんは選挙で小池塾の候補者を応援すると表明しました。実現すれば自民党員が非自民の候補者を擁立し支援するということになります。またまた小池さんは得意技「誘い連れ込み足」をねらっているようです。
若狭氏の前例にならえば、国会議員レベルの自民党員が敵対候補を応援しても、幹事長から口頭でお叱りを受けるだけの軽い処分のはずですが、自民党はどう対応するのでしょうか。誘いに乗って下手に出ればまた返し技を喰らいそうです。
さらに小池さんの仕掛けは続くはずです。都の入札制度問題を切り口に、都議会に巣くう黒い頭のネズミを穴から引っ張り出すことでさらなる支持をねらうのも確実です。
先日の都議会で自民党議員席周辺から、

「こっちのネズミも愛して!」

というヤジがあったとニュースが伝えていました。黒い頭のネズミかどうかはともかく、都議会自民党が「窮鼠」であることは確かでしょう。
自らの愚によりいまや大ピンチの鼠が、度胸満点で喧嘩上手な熟女猫に噛みつけるのかどうか、まるで昔のディズニーアニメのようでまだまだ東京都ネタはおもしろそうです。都議会自民党がミッキーマウスというわけには行きそうもありませんが。
 
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