27時間テレビ「お笑い向上委員会SP」悪ふざけコスプレはなぜつまらないのか?

テレビ

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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フジテレビ「27時間テレビ」の中の「お笑い向上委員会SP」は、長い放送時間の中で筆者が最も期待していたのはこのコーナーであった。今年の「27時間テレビ」の全体テーマ「にほんのれきし」(ひらがな表記にするところに番組の迷いが見えることはさておき)にちなんで、出演の芸人全員が歴史上の偉人を演じると言う趣向である。
瓦版屋に扮した明石家さんまが言っていたように、みな歴史上の偉人の枠を外れて好き勝手に扮装している。芸人の好きなようにさせたのであろうが、好きなようにさせたら、演出側の意見はもうあまり入れずに賭けに出るこの方式は妥当だと思う。
さて、各芸人の扮装だが、筆者はこれを3分類した。
(1)キャラクター・メイク
(2)悪ふざけコスプレ
(3)分類不能
の3つである。
(1)キャラクター・メイクは後に演じるプランがあって、そのプランを実行するのにおもしろさを倍加させるための扮装である。ドラマの役者に近い。
この範疇に入るのは、

*関根勤=ペリー提督(高嶋政伸に似ていたのは僥倖で、それを見事に笑いにしている)
*今田耕司=小野妹子(ほかの人にあまり影響を与えない扮装。その理由は隙あらばMCの位置を占めようと言うこの人一流のすぐれた計算である)
*宮迫博之=明智光秀(文春砲と書かれた砲弾に身体を射貫かれている。宮迫は「これはスタッフの仕業」と言うが、そういう設定にしたほうが面白いので宮迫本人の発注であってもスタッフでもどちらでもよい)
*ずん・飯尾和樹=日本最初のブルペンキャッチャー(この人の位置取りの上手さにはいつも感心する)
*土田晃之=与謝野晶子(顔が似ている)
*中川家剛、中川家礼二兄弟=ライト兄弟(コロンビアトップ・ライトという往年の漫才師を想起させるだけでなく、この舞台で古典的で古くなってしまった漫才のパロディを演じるつもりなのだ)
*森三中・黒沢かずこ=武蔵坊弁慶(しゃべらず、歌舞伎の弁慶の顔真似をし続けたのは偉い)
*椿鬼奴=観阿弥(世阿弥の父。能は武家や公卿に愛され、芸能人が世の中で賤民から地位を上げるのに寄与。しかし、このネタは偏差値が高すぎるし、そもそもいじりにくい)
*岩井ジョニ男=イブ・サンローラン(ビートたけしの歌真似が出来て助かった)
*加藤歩=金剛力士像(金粉を塗ると皮膚呼吸が出来なくなり、苦しい。よく頑張った)

キャラクター・メイクだと思われるが、いじられても面白くなっていなかったり、いじられた後のネタを考えていなかったので評価できない人々は以下。

*蛍原徹=大平正芳首相(ふだんから「アーウーくらいしか喋らない」からそうしたのだろうが、面白さは伝わらなかった)
*ゆりやんレトリィバァ=卑弥呼(この人は実力を持っているので、はずしても使い続けて欲しい)
*ずん・やす=篠原信一
*あかつ=金太郎
*レイザーラモンRG=ジェット・リー
*小宮浩信=坂上田村麻呂
*斉藤慎二=エルビス・プレスリー
*尼子インター・誠子=鉄の鎧を着たジャンヌ・ダルク
*尼子インター・渚=打ちのめされたロッキー
*みやぞん=ハチ公
*ナダル=一休さん(この人はネタを考えていたようだが外していた。ネタを思いつかない時は何でもいいから時間を置かず直ぐ言うことが必要だ。何か言えばさんまがいじって面白くしてくれる。それを忘れているのはマズい)

ところで笑いの世界での「やめろ」は「やれ」という意味の裏セリフだというのは、もう一般の人にも知れ渡ってしまったルールだが、時に「本当にもうやるな」の意味のことがある。これは怖い。さんまを相手に何を振られるか緊張して手が震えている芸人が何人もいたが、それは乗り越えていくべきものだ。
【参考】「27時間テレビ」お笑い封印というフジテレビの勘違い
(2)悪ふざけコスプレは、いわゆる出落ちの扮装である。顔にメッセージや絵を描くことが多い。筆者の育った環境では、このタイプは「ひとりウケ」とか「奇抜」とか言われて、厳しく戒められたものだ。時には先輩に殴られたことすらある禁じ手だ。
その理由はこれらが、舞台なら登場した時に、テレビなら写った時に、その瞬間の笑いが最大で、それ以降は尻すぼみになるからである。振りが大きすぎるのである。さらに、全員チームになって笑いをくみ上げていこうという時に、他の演者の邪魔をすることにもなる。大抵このタイプの演者は引くことを知らない。
ただし、明石家さんまはこれを許容する。吉本新喜劇を見て育ったこと、ビートたけしと戦友であったことが大きい。何しろ、ビートたけしは出落ちで、その後は尻すぼみと言う公式を変えてしまったのだから。
たとえば、たけしの「ヘビースモーカーの課長」が「ヘビの着ぐるみを着てタバコをプカプカ吸う扮装」で出てきたとしても、その後にさらに大きな笑いを取る。ペーソス(哀愁)さえ漂わせる。往時のビートたけしはそのくらいの実力者だったのである。ただ単にビートたけしの真似をして、悪ふざけコスプレをしても笑えない。
前置きが長くなったが、悪ふざけコスプレの芸人を列挙する。

*太田光=ピエロ
*堀内健=ピノキオ

上記のふたりは、東京の芸人でもあり、和を乱す位置を期待されていると思われるが、筆者には特に面白いと感じられなかった。

*くっきー=未来の明石家さんま(いつも連続して見ているわけではないので、番組内だけで通用する言語が筆者には分からない)
*吉村祟=落武者(とにかくあかるい安村以来、ハダカは、今のところで出落ちにさえならない)
*田中卓志=ミイラ(やはりハダカだが、スタッフにやらされた気配もあるので可哀想か)

ちなみに、モニター横は(3)分類不能の芸風である。

*間寛平=ペニスサックのアヘアへ原住民(芸風)
*村上ショージ=味噌田八郎 (芸風)
*松尾伴内=モアイ像(顔が似ているからだろうが、それは自分から言ったのでは伝わらな笑いだ。「お前は、モアイか」が必要である)
*ジミー大西=パンダのモーモー(芸風)

今田は、彼らのことを「さんまの同級生」と呼んだ。この4人はテレビ以外でもさんまとコントを演じてきた人々だ。今田は「さんまはレベルを落としてでもこの4人と同じ商業高校に進学する」と言ったが、このあたりの発言が今田の非凡なところである。
【参考】<このままでは共倒れ?>「27時間テレビ」タレントの白々しさ
さて、その今田に「さんまの戦友」と呼ばれたのは関根勤。そして、1980年代を生き抜いて、未だ生きながらえるもうひとりがビートたけしである。
おまたせ、出落ちを超越した芸人ビートたけしの扮装は金髪パンチパーマの花火師、火薬田ドンである。初登場当事は出落ちの色も濃かったが、何回も繰り返すウチに、これはキャラクター・メイクとなった。「27時間テレビ」の他のコーナーのようにはらはらしてみているのではなく、安心してビートたけしを笑って見ていられるのは得がたい時間だ。
太田光が「この形式で次の27時間やりましょう」と提案していたが、さんまに「ホンマにそう言う計画があるらしい、言うな」と、止められる。
さんまには、番組をやる時に「自分のため」以外に、誰かのためにガンバルというモチベーションが必要だと筆者は思っているが、本当のところは、筆者はさんまではないので分からない。
 
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