<細かすぎて伝わらないモノマネ選手権>おもしろいから笑うのではなく「笑うからおもしろい」

テレビ

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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終了が決まったフジテレビ『とんねるずのみなさんのおかげでした』。12月21日(木)の放送で名物コーナー「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」の最終回だけを見た。
とんねるずの笑いは肌に合わないので、あまり見る機会がない中で、このコーナーだけはこれまで積極的に見てきた。その理由は「細かすぎて・・・」が企画としてすぐれていると感じていたからである。主な理由は以下の4つだ。

(1)とんねるずを前面に出すのをやめた点
(2)ものまねというふんぎりの悪い芸を、物理的な芸人の落下というシステムで、まさしく落ちを付ける構造にした点
(3)ショーパブ通いやオーディションを繰り返すことによって才能の発見に時間を惜しまず使った点
(4)「細かすぎて伝わらない」というコンセプトを確立しようという明確な企画意図があった点

・・・などである。これまでの回では、数多くのネタが登場する中で、全く分からないものもありながらも必ず、1つか2つはツボにはまって笑ってしまうネタがあったのも、これまで見続けてきた大きな理由であった。
ところが、今回は残念ながらつまらなかった。少なくとも筆者には、ひとつも笑えるネタがなかった。
【参考】フジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした」の「細かすぎて伝わらないモノマネ」はもう見限る潮時
その代わりに目立っていたのが、とんねるず、バナナマン、古田新太、関根勤、本田翼といった鑑賞者たちが笑っている場面だ。喜怒哀楽のような感情(正確には情動)について、私たちは普通、「悲しいから泣くのであり、腹立たしいから殴るのであり、怖いから震えるのである」と思っている。
しかしながら、心理学者ウィリアム・ジェームスは逆だと述べる。「泣くから悲しいのであり、殴るから腹立たしいのであり、震えるから怖いのである」という説だ。身体反応が先で情動は後であるというのだ。これはジェームス=ランゲ説と言われ、多くの心理学者も賛成した。最近の脳科学の知見もこれを支持している。
そういう意味では、「細かすぎて・・・」のスタッフはジェームス=ランゲ説を知ってか知らずか、結果的に応用していたのである。テレビの中の人が笑えばテレビを見ている人もつられて笑う。笑うから見ている人はおもしろい(と感じる)。
とんねるず、バナナマン、そして細かすぎるものまねの元祖とも言うべき関根勤ら、このスジの権威者が大声で笑う。日本人は特に権威者に弱いからあわせて笑わないといけないような気になる。そして大声で笑い、笑えばおもしろい(と感じる)。
そう考えれば、「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」が考え抜かれた企画だったことは明らかである。そして、それが今回おもしろくなかったということ、言うなれば単純な「ネタ切れ」なのであろう。
ネタは何年か経ってあたらしい芸人が生まれ、あたらしい有名人が生まれれば自然に集まってくる。その時はまた「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」のアレンジ企画が生まれるだろう。しかし、司会はとんねるずの時代ではなくなっているだろう。
それがまたテレビらしいところでもある。

 
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