<国会議員が「ちびまる子ちゃん」にクレーム?> 「友達に国境はな~い!」は、なぜダメなのか
両角敏明[元テレビプロデューサー]
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名古屋の小学校で行われた前川喜平・前文部科学事務次官の授業に対する介入を追求されている2人の自民党議員のひとり、赤池誠章参院議員が、2015年に映画「ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年」のキャッチコピー「友達に国境はな~い!」が重大問題だと、文科省に猛抗議していたことがわかりました。
と書いても、何が問題なのかピーンと来る方がどれほどいらっしゃるでしょうか。でも、赤池議員は、この映画のポスターを見て、「思わず仰け反りそうに」なったのだそうです。一方でこの映画は文科省のタイアップ企画であり、当時の馳浩文科大臣は「子供たちが世界に目を向けるきっかけとなることを期待しています」とメッセージしているアニメ映画でもあります。
では赤池議員は何にのけぞるほどのお怒りを感じられたのでしょうか。その理由を当時、ご本人がSNSに書いています。
「~国際社会とは国家間の国益を巡る戦いの場であり、地球市民、世界市民のコスモポリタンでは通用しないと機会あるごとに言ってきた~」「たかがキャッチフレーズ。されどキャッチフレーズ。一事が万事で、言葉に思想が表出するものです。国家意識なき教育行政を執行させられたら、日本という国家はなくなってしまいます。文科省の担当課には、猛省を促しました。」(以上、引用)
AERA誌(朝日新聞出版)によると、今回改めて赤池事務所に質問状を送ったところ、FAXで回答を得たと記事にあります。
「教育行政を司る文部科学省として、子供向けとはいえ、『国境はない』という嘘を教え、誤認をさせてはいけない」「国境は歴然としてあります」「私なら(キャッチコピーは)『国境があっても、友達でいよう』と名付けた」(以上、引用)
SNSとFAXトータルすると赤池議員の説明は、
*国とは国益を巡って互いに戦う存在なのだから、こどもたちに国家意識や愛国心を醸成しなければいけない。
*「友達に国境はな~い!」などというキャッチコピーは、国境は存在するのだから「嘘」であり、「嘘」を教えてはいけない。
ということを、本気でおっしゃっているようです。
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筆者はこのご発言を知って思わずのけぞってしまいましたが、国会議員ならずとも個人の思想信条はどこまでも自由ですから、個人として内心で何をお考えになろうとも自由です。しかし、自民党が公党として外に向かって考え方を示すときに、党としての考え方が赤池議員と同じなのかどうかは重要です。
赤池議員は教育行政の政策決定に重大な影響力を持つ自民党文部科学部会長です。前川氏の授業に介入したと言われるもう一人の池田佳隆・文科部会長代理も愛国心教育に極めて熱心な方です。
自由民主党は自由と民主を標榜するはずですが、赤池・池田両議員が標榜する教育はこどもの自由な考え方を狭い範囲に拘束し、明らかに国家主義的な方向へ強制するものです。党としての文科行政施策を担う部会が、これほどまでに国家主義的傾向を強く主張する方を中心に運営されることが適切なのでしょうか・・・。
いくらタカ派全盛の自民党といえども、せめて、こどもたちに「友達に国境はな~い!」、「友情に国境はいらな~い!」ぐらいは、自由に言わせてもらえないものでしょうか。安倍一強が長く続き、麻生財務大臣の傲慢な態度をはじめ、「それはいくらなんでも」という言動が目立っています。
*西田昌司参院議員は、決裁文書改ざん問題を財務省による財務省のための情報操作と断定し、「これは佐川事件だ!」と決めつけました。
*和田政宗議員は、答弁に立つ財務省の太田充・理財局長が民主党野田首相の秘書官だったことから、安倍政権をおとしめるための答弁ではないかと質問し、太田局長から「それはいくらなんでも、いくらなんでも!」と渾身の抵抗を受けました。
*前出の池田佳隆議員は、演説で「安倍先生は救国護国の本物の指導者です!」と叫んでいました。まるで戦前のようです。
いつのまにか自民党からハトたちが消え、すっかり景色が変わってしまったような気がします。自民党ってそんな党でしたっけ。
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