<森友文書改ざん問題>改ざん前文書に見る近畿財務局の叫び
両角敏明[元プロデューサー]
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この原稿は2018年3月13日に書いています。
2年前、森友学園から「新たな?ゴミ」が見つかったと報告があってから、近畿財務局(近財)は奈落の底へ落ちはじめました。
2016年3月11日、籠池氏は「新たな?ゴミ」の出現に怒り心頭でした。もともと用地の浅い部分にゴミがあることは分かっていました。ですからこの用地の賃借にあたり森友側と近財は話し合い、費用は国が「有益費」として後払いする契約で、調査で確認された「深さ3mまでの浅い部分」の土壌を森友側が処理しました。
よって籠池氏にしてみれば、この処理済み用地からゴミが出るはずはないのです。ところが近財と森友側業者は、費用上の問題から、用地にある有害汚染土と大きな障害物は除去したものの、それ以外のゴミは同じ用地内に「埋め戻し」ていました。なぜかこのことを籠池氏に知らせなかったため、籠池氏にしてみれば、出るはずのないゴミが出てきたと憤慨し、損害賠償訴訟までちらつかせます。
籠池夫妻は出先である近財と話していても埒があかないと考え、東京の財務省本省へ乗り込みます。2016年3月15日のことです。ふつうなら会うことなど出来るはずもない田村嘉啓・国有財産審理室長がなぜか面談に応じ、延々と籠池夫妻の苦情を聞いた上でこう約束します。
「今日の夕方にも電話でご連絡し明日にも担当者をうかがわせ責任を持って対応します。」
翌3月16日、田村氏の言うとおり、なんと近財側が森友学園をたずねてきて、籠池夫妻、設計業者、施工業者と向かい合います。彼らは本省も納得の秘策を腹に呑んでいました。この時の録音がこの2月に共産党が公開した2016年3月16日の音声データです。
近財は森友側に対しきわめて重大なことを言い出します。
「本省から指示を受けている。有益費部分とは別に出てきた産廃は国に瑕疵があり、撤去は国がやりたい」
これを分かりやすく言い換えると、
「本省指示ですから悪いようにはしません。ただ、有益費部分の埋め戻しゴミは国の責任としない契約書があるので責任を負えません。でも、契約外の別の場所から出たことにすれば国が責任を負うかたちで大サービスができます。」
近財は、今回出てきたゴミは「埋め戻し分」ではなく、これとは「別に出てきたゴミ」という判断を示し、自ら責任を取りたいと破格の申し出をしてきたのです。ところが業者を含めて森友側の全員が、今回のゴミは「埋め戻し分」から出たもので、国はそれを理由に処理責任から逃れようとしていると思い込んでいます。
しかし意外なことに、「埋め戻し分」なら法的には責任がないはずの近財の方から、出てきたゴミは「埋め戻し分ではない」ので国に瑕疵があり、撤去は国がやりたいと言っています。近財は森友側が思ってもいない責任を自ら言い出し、必ずしも事実とは言えない判断をしてまで、森友学園へオウンゴールの大量得点をプレゼントする気なのです。しかしこれはあまりに突拍子もない提案であり、しかも近財の言い回しがきわめて慎重ですから、森友側は誰も近財の真意に気づけません。
実は超破格の厚遇処置を近財が提案しているのに、その国の真意に気づかない籠池氏は、ゴミを埋め戻したのは国が誘導したからだと非難します。妻の諄子夫人も例によっていきり立ちます。この3/16音声データには、籠池夫妻による罵詈雑言の数々が録音されています。
籠池氏「出てきたものは保証せえ!」「ゴミが残っているのだから、やってもらわなあかん!」
諄子氏「あんたら勝手なことばっかり言って、印鑑ばかり押させて!」「たくさんの人が亡くなっていると思うわ、アンタらのために!」「隠蔽や!悪い人間やなあ!」「給料返せ!若いときに勉強ばかりして!」「みんな死んだら地獄へ行くわ!」「この人殺し!まともな役人ひとりもおらん!」
自分の誤解に気づかない籠池夫妻にここまで言われても近財の担当者は耐えます。国が繰り出すオウンゴールシュートを、籠池夫妻が罵声とともに蹴り返し続けるという奇妙なシーンが続きます。
本来なら国民全体の奉仕者である官僚たちが森友学園を特別扱いするいわれはありません。音声データを聞けば、きっと誰かのために、何かのために、耐えて、耐えて、耐えています。それでも、いつまでも収まらない籠池夫妻・・・。こうした不毛なやり取りが続いた後、近財はとうとう直截な言葉を発します。
「ゴミをどけるというのもひとつですが、建物を建てながら、その分は評価から減額する方法の方が、ぼくはいいんじゃないかなと」
そして、すがるように
「理事長、ゴマかすつもりはつもりは本当にないんです」
それでも、籠池氏夫妻が、タダ同然で国有地をくれてやろうとしている国の真意に気づくのは、この3/16音声データの何日か後のことです。そして8日後の3月24日、籠池氏はこの土地の購入を申し出ます。そして、ゴミは有益費部分以外の新たな場所から出たことにするという口裏合わせ(3/30音声データ)、具体的金額をあげての交渉(5/18の音声データ)を経て、6月には8億2000万円の値引き、年利1%の10年払いで、このきわめて異常な国有地払下げが成立し、やがて改ざんされることになる問題の決裁文書『売払決議書』が近畿財務局によって起案されることになります。
【参考】安倍総理が国会でくり返す『朝日新聞の誤報』 って何?
近畿財務局はこうした過程で、理不尽な籠池夫妻の罵倒に耐えることを含めて、森友案件でどれほどつらい仕事を強いられてきたのでしょうか。自殺されたA氏は「自分の常識が壊された」「汚い仕事」と語っていたと報じられています。
今回、改ざんされ、消されてしまったページには、財務省の決裁文書としては異常なほどの詳細さで、政治家や昭恵夫人に関する記述を含めた森友事案の経緯が具体的に書かれていました。その詳細さは、無理な案件を、汚い手段を用いてまで特例として処理せざるを得なかった近畿財務局の、本省に対する『苦渋の叫び』のようですらあります。
麻生財務大臣は、緊急会見では自らの責任は否定、質問する記者に余計な茶々を入れたりした挙げ句、「いい加減にしようや」と言い放ち、最後は笑顔まで見せました。あまりに不遜に見えました。部下のひとりであるはずのA氏の死についても、「残念で悲しいこと。国鉄から来た人。」と言っただけでした。後日、改ざんを認めた後も、大臣たる自分の責任は認めず、公文書改ざんは理財局の一部の職員の意志でやったことで、当時の佐川局長が最終責任者と断じました。
これを受けて、野党合同ヒアリングの場で、現在の理財局・富山一成次長は「書き換えは理財局が自らの判断でやった」、「政治家等の関与はない」と言明して麻生発言にひれ伏しました。しかし、誰が見てもそれは無理です。これほどの大改ざんを「理財局の一部の職員」の意志だけで出来るはずはありません。佐川さんが自分ひとりの責任で部下に大犯罪を命じるはずもありません。そして何があろうが、不祥事の最終責任者はその組織の長、麻生大臣です。
財務省のみなさんがあり得ない改ざんまでして安倍総理や麻生大臣を必死に守った結果が、A氏の死であり、佐川氏の罷免であり、財務省の崩壊なのではないでしょうか。
佐川さん、田村さん、富山さん、理財局の一部のみなさんや近畿財務局のみなさんが、プラドを取り戻し、ご自身の貴重な命や能力や人生を充分に忖度され、安倍総理ご夫妻や麻生大臣への忖度をほどほどにされることを祈りたい気分です。努々、命をかけたりはなさらないように。
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