<危険ドラッグ販売店が全てなくなった?>裏もとらずにニュースを垂れ流すテレビ報道の劣化

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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「そりゃ変でしょう。」と、瞬間的にそう思った。7月10日金曜日のことだ。
TBSのニュース番組「Nスタ ニューズi」で、アナウンサーが、

「東京・新宿区歌舞伎町の危険ドラッグ店2店舗が摘発され、経営者らが警視庁などに逮捕されました。これにより国内の危険ドラッグ販売店は全てなくなりました」

というリード(ニュースの前振りコメント)を読んだからである。誰が危険ドラックの販売店がなくなったと確認したのだろうか。このままでは、普通、テレビ局が裏を取ったと言うリード原稿である。
そうではないことはすぐ分かった。危険ドラッグの販売店がなくなったと発表していたのは、塩崎厚生労働大臣だったからである。この確認をせず、裏を取らずにリードを書くことを、「発表の垂れ流し」と言う。
では、朝日新聞はどうなっているだろう。見出しは「危険ドラッグ店舗ゼロに」である。まあ、TBSと大差ないが本文では、

「厚労省と、警視庁は、『摘発により国内の販売店はなくなった』と説明している。」

と、正確に書いてある。日本経済新聞の見出しは、朝日とほぼ同じ。本文で、

「警視庁組織対策犯罪5課などは、店舗での販売は一掃されたとみている。(中略)潜在化が懸念される」

と書いてある。一番ちゃんとしていたのはNHKの「7時のニュース」である。

「厚労省は(店舗は)なくなったとしている」

と言うリードであり、危険ドラッグがより目につきにくいところに潜んでいくのが問題だとの論調で独自取材を加えている。
ちょっと考えればすぐ分かることだが、このニュースで大事なのは摘発の映像を見せることでも、厚労省が仕事をしてますよ、危険ドラックの店舗はゼロになったんですよ、と塩崎厚労大臣の発言を伝えることでもない。
テレビニュースとして摘発映像は人の目を惹きつけるために充分使えばよいと思うが、摘発後の潜在化を伝えなくて、何がニュースなのであろうか、と筆者は思う。報道の劣化という言葉が思い浮かぶ。
今回のTBSの場合、

  • 主語を明らかにしない原稿を書いた記者が劣化しているし、
  • その原稿を直さなかったデスクや編集長が劣化しているし、
  • 変だとも思わず読んだ報道アナウンサーが劣化しているし、
  • 潜在化について話し合おうという提案をしなかったディレクターとキャスターが劣化している。

と言うことになる。もちろん、意地悪な筆者のような視聴者にたまたま見られてしまい、鬼の首を取ったように指摘されたTBSは可哀想であるとも言えるのかもしれない。
しかし、このような、ごく初歩の劣化は他のテレビ局でも、この頃頻発しているように思える。こういう初歩の劣化はアリの一穴のうちに潰しておかないと、将来において劣化ウラン弾で攻撃されたような大きな穴になってしまうことを、筆者は何回か経験しているのである。
 
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