<過去に学ばない?フジテレビ報道>イスラム国人質殺害速報でのフジの混乱は「震災報道のあの時」を思い出す。
藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター]
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1月24日午後11時08分ごろ、インターネット上に殺害された湯川遥菜さんと思われる写真を持つ後藤健二さんの映像が公開されました。日本中が怖れていた重大事態発生の可能性が大です。これをテレビ各局はどう速報したのでしょうか。
【NHK】25日午前0時からの「NHKニュース」の冒頭から解説員とともにこの新たな事態を伝え、0時12分の管官房長官の臨時記者会見も冒頭から生で伝えました。
【日本テレビ】23時55分からの「Going!sports & news」の中で0時09分ごろ女性アナが顔出しで事件を伝え、そのまま生で0時12分からの官房長官会見へつなぎました。
【テレビ朝日】25日午前0時15分からの「ポータル ANNニュース&スポーツ」の冒頭からこの事件を伝えましたが官房長官会見はVTRでした。
【TBS】25日午前0時19分に「世界さまぁリゾート」の中でスーパー速報、つづく0時30分からの「S☆1」の冒頭で10分間ほどこれを伝えました。官房長官会見はVTRでした。
さて、続いて昨今何かと話題のフジテレビはどうだったでしょうか。
【フジテレビ】午前0時からの枠は「LIVE2015 ニュース&すぽると!」です。境鶴丸アナが登場し、トップはもちろんイスラム国人質問題。しかし奇妙なことに夕方段階と同じ内容を報じています。
NHKは新たに起きた重大事態をまさに伝えている最中なのに、です。「LIVE2015 ニュース&すぽると!」は淡々とイスラム国問題で「人質の安否は不明」などと、もはや古くなった情報を伝えた後、他の項目に移り、放火、詐欺、バター不足などを伝えてCMへ入りました。
しかし、CMがあけた0時12分、境アナが怪訝そうな顔で「管官房長官の会見」とだけリードして会見の中継映像が入ります。1分程度の短い会見が終わると、会見に至る事態の経緯にはふれないままダイレクトにCMへ。なにか混乱している様子が窺えます。そして、筆者が驚いたのはその後の展開です。
CMがあけてもイスラム国関連には一言もふれないまま、いきなりスポーツネタに切り換えてしまいました。その後はイチロー、女子マラソン、プロ野球女子会、ヤクルト山田、などの話題を40分も延々と伝え続け、境鶴丸アナが「予定を変更してイスラム国~」と言いはじめたのはなんと0時58分になってからでした。
こうしてみると、信じがたいことではありますが(こういう情報はテレビ局が何もしなくても内外の通信社が情報を配信してくるので、0時12分時点でフジテレビが気づいていない、というのは考えにくいことではあるのですが…。)、フジテレビ報道局は番組開始時点では、イスラム国問題で新たに重大な展開があったことをまったくつかんでおらず、0時12分に管官房長官が臨時記者会見するという情報が入って、とりあえずこれを生で入れたのではないでしょうか。
そして新たに重大な事態が起きていることを理解し、これを伝えるべく立て直すのに40分を要したのだと想像します。フジテレビの狼狽ぶりがリードを読む境アナの当惑した表情と口調に表れていました。
このフジテレビの迷走ぶりを視ていて、3・11、あの日を思い出しました。地震発生時「あの時」の各局です。
2011年3月11日(金)14時46分42秒の地震発生に対し、東京で揺れを感じる前に国会中継中のNHKは「緊急地震情報」をスーパーします。そして、強い揺れがくると即座にアナウンサーが顔出しで危険回避のコメントを読み続けます。画面外から息を切らし切羽詰まったディレクターの声も聞こえます。
しばらくして突然音声が中断、不気味な長い警報音が鳴り、これが突然途切れると、いきなりアナウンサーが声が裏返えし叫ぶように津波の警報と避難を必死に訴え始め、それが延々と続きました。まさにかつて経験したことのない緊迫した放送でした。
民放では、14時46分に日テレが、一瞬遅れてTBSがスーパーで地震速報を打ち、30秒遅れてテレ朝が続きました。
さて、フジテレビですが、日テレ・TBSに2分以上遅れて韓流ドラマを中断し震度地図を一瞬入れますがすぐにニューススタジオにスイッチします。しかしそこは無人で机と椅子が空しく揺れているだけ。
やむなく(?)画面を韓流ドラマに戻しますが、そのシーンはなんとベッドシーン。「男と女が・・・」というどうにも不都合なシーンがかなり長く続きました。ようやくフジテレビの画面にヘルメットをかぶった男性アナが登場し、地震速報の第一声を出すのはNHKに遅れること4分。第一報という点でCXは全局からダントツ遅れとなったのでした。そして驚くような混乱ぶりを露呈していたのです。
フジテレビは過去に学んでいたのかな、と少し疑問を感じます。今回の「速報」の扱いに各局の勢いの差が出ているとまでは言えないでしょうが、こうした場合の対応能力はテレビ局の地力のひとつの表れであり、視聴者からの信頼獲得という意味ではけっして無視しない方がよろしのではないでしょうか。
こういうことってボディブローのように効くものですからね。
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