<木村拓哉主演『グランメゾン東京』>もしオマージュならドラマ冒頭でそれを示すべき
物部尚[エッセイスト]
***
『二ツ星の料理人』(原題: Burn、監督・ジョン・ウェルズ、脚本・スティーヴン・ナイト、主演・ブラッドリー・クーパー)は、特に大したことのないアメリカ映画である。ストーリーの概略。
主人公アダムは、パリのレストランで天才の名をほしいままにした料理人である。一方で、天才ゆえのトラブルメカーであった。麻薬と酒に溺れてヤクザらしき男たちから多額の借金をした。しかし、心機一転、アダムは、ロンドンに渡り、ミシュラン3つ星のレストランを作る決意をする。ロンドンで店の調理スタッフを集めようとするが、かつての悪行や、すぐにキレるという性格から仲間はなかなか集まらない。店を始めたアダムのもとにヤクザたちが迫る。
言ってしまえば、誰でも思いつきそうな話である。誰でも思いつきそうな話でも、役者の芝居や、そこに導入されるエピソード、映像、音楽などで、傑作になり得るものだが、残念ながら浅い。
筆者がこの『二ツ星の料理人』を見たのは、木村拓哉主演のTBS『グランメゾン東京』を見たからである。『グランメゾン東京』は筆者が「ドラマの脚本家に漫画原作を書かせた新しい発明」とたたえた作品だが、ネットを見ると数多くの点で『二ツ星の料理人』との類似点が指摘されている。
[参考]木村拓哉『グランメゾン東京』脚本家に漫画原作を書かせたTBSの発明
結論から言うと「大変良く似ている」。ストーリーの骨子が同じである。主人公のキャラクター設定が似ている。ただし、アイディアの類似はただちに咎められるべきものではない。オマージュ(hommage、リスペクトrespect尊敬・敬意とほぼ同義)ということもある。
筆者の考えでは、もし、オマージュであるならば、ドラマ冒頭にオマージュであることを示すべきだと考えるが、その表示は『グランメゾン東京』にはない。
ということは、偶然の一致だったと考えることもできるが、筆者の見た感じでは偶然の一致説は、可能性が低いように感じる。
たくさんの過去作品を見ることは、ドラマ制作者にとって必要不可欠であるが、『グランメゾン東京』の製作者はおそらく、『二ツ星の料理人』を見ている。善意で解釈すれば『二ツ星の料理人』は『グランメゾン東京』の製作者の身になってしまったのだろう。
脚本は、現時点で4話か5話かまでできていると思われる。願わくば『グランメゾン東京』は『二ツ星の料理人』とは、全くちがう展開を示して、独自性を表現してほしい。「ミシュラン三ツ星取れてよかったね」という結論を筆者は最も望まない。
【あわせて読みたい】