ふるさと納税が示す日本の後進性

政治経済

植草一秀[経済評論家]

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「ふるさと納税」という制度がある。

総務省は「ふるさと納税」について、次のように説明している。

「地方で生まれ育ち都会に出てきた方には、誰でもふるさとへ恩返ししたい想いがあるのではないでしょうか。育ててくれた、支えてくれた、一人前にしてくれた、ふるさとへ。税制を通じてふるさとへ貢献する仕組みができないか。そのような想いのもと、「ふるさと納税」は導入されました。」

もっともらしい言葉が並べ立てられているがこれらの説明やネーミングにだまされてはいけない。総務省はふるさと納税の意義が三つあるとする。

第一に、納税者が寄附先を選択する制度で、税の使われ方を考えるきっかけとなる。税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になる。
第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度。人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になる。
第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進む。選んでもらうに相応しい、地域のあり方を考えるきっかけへとつながる。

元総務官僚の平嶋彰英立教大特任教授は菅義偉官房長官(当時)にふるさと納税の問題点を指摘して左遷されたとされる。東京新聞のインタビューに対して平嶋氏は、

「官房長官だった菅さんから2014年に、寄付金の上限額の倍増や手続きの簡素化などを指示され、返礼品競争の過熱や、高所得者への過度な優遇になるという課題を指摘したら、反対したということにされて飛ばされた。『逃げ切りは許さないぞ』と圧力をかけられ、最終的には従ったが、異を唱えたのが気に入らなかったのでしょう。」

と述べている。

ふるさと納税とはどのような制度か。概略は以下のもの。

個人が自分の居住する自治体以外の自治体を選び、寄付をするもの。税務申告等により、その寄付金額相当額が住民税および所得税納税額から控除される。個人は寄付額に応じて寄付をした自治体から返礼品を受け取ることができる。

要約すると、自分が納める住民税・所得税を自分が居住する自治体以外の自治体に振り替えることにより、返礼品を受け取れるというもの。高額納税者ほど振り替えられる金額は大きくなる。ふるさと納税を行う動機は納税額の節約。寄付金額の30%相当の返礼品を受け取ることができれば、金額換算で3割の減税になる。

「ふるさと納税」制度で自治体全体の収入が増えるわけではない。2021年度の実績ではふるさと納税の金額は8302億円。そのうち、地方税・所得税から控除された金額が5672億円。事務上の手続きの不備等から控除が認められなかった部分が存在すると思われる。東京都区部や横浜に居住する住民が、返礼品を獲得するために地方自治体に寄付をする。その金額が東京都区部や横浜市の税収からそぎ落とされる。自治体全体では返礼品で寄付者に返礼する金額分だけ税収=収入が減少することになる。

この制度で恩恵を受けるのは金額換算で多額の返礼を受ける高額納税者。所得税・住民税制度の根幹を歪める効果を有している。

格差拡大の時代。税制が格差是正の機能を発揮しなければならないのに、ふるさと納税は逆の影響を与えている。また、地方自治体が返礼品に何を用いるのかが問題だ。特定の事業者の製品・産物等が返礼品に用いられる。返礼品の選定も「利権」の具にされる。

地方自治体の事務負担は大きい。この事務負担がなければ、その分だけ税を少なくすることができる。「ふるさと納税」は日本の後進性を鮮明に映し出すものだ。

 

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