<自民党裏金>国民の不断の監視と批判を
植草一秀[経済評論家]
***
自民党裏金犯罪事件を背景に国会に特別委が設置され政治資金規正法改正が審議されている。
自民党は組織的に巨大犯罪を実行した。政治資収支を収支報告書に記載して明らかにすべきところ、収支報告書に記載せず裏金を創作していた。議員が自ら制定した政治資金規正法を踏みにじる重大犯罪である。しかも、自民党はこの犯罪を組織的に、かつ意図的に実行した。警察・検察が適正捜査を実施していれば多数の自民党議員が犯罪者として立件されていた重大問題である。
日本では警察・検察が腐敗しており、政治権力者の犯罪を取り締まらない。今回の巨大犯罪事案においても、刑事事件として立件したのは氷山の一角のほんの一部にとどまった。刑事司法が腐敗している国は三流国である。日本は名実ともに三流国に転落している。
政治資金規正法は、
「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため」
「政治資金の収支の公開並びに政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより」
「政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与すること」
を目的として制定されている。
自民党が組織的に実行したのは「政治資金の収支を収支報告書に記載せず裏金にしていた」というもの。抗弁のしようのない重大犯罪である。このような重大犯罪を警察・検察が取り締まらないなら、日本は完全なる無法国家である。
このことの深刻さ、重大さは計り知れない。自民党の巨大組織犯罪に対して野党は徹底攻撃するべきだった。最終的には抜本法改正が必要である。そうであるなら、予算審議の過程で与党から抜本法改正の言質を引き出すべきだった。与党が真摯な対応を示さぬなら予算審議に応じない。この程度の強い姿勢で臨むべきだった。
予算を人質に取らなければ、議会で少数議席の野党が抜本法改正を実現することは困難である。抜本法改正を実現するための審議拒否であるなら、主権者も納得する。しかし、立憲民主党は有効な行動を示さなかった。自民党の要望するまま、完全無抵抗で予算成立に全面協力した。この時点で「政治とカネ」問題を解決するための政治資金規正法抜本改正の望みは消えたと言ってよい。
国会が延々と展開したのは政倫審での意見聴取だけだった。ウソを述べても処分されない政倫審で質疑を繰り返しても実効性のある成果を生み出すことはできない。後半国会になり、ようやく法改正審議が始動したが、想定通り、与党は抜本法改正に背を向けた。
5月27日の政治改革特別委で有識者に対する参考人質疑が行われたが、与党推薦の参考人は与党の意向に沿う意見しか述べない。国会多数議席を与党が握っている限り、与党の意向の範囲内でしか法改正は実現しない。自民党が組織的に実行した「不記載」、「虚偽記載」は大規模に刑事事件として摘発されるべきもの。参考人として意見を陳述した元参議院議員の平野貞夫氏は15年前の西松事件、陸山会事件における「虚偽記載での小沢一郎議員秘書逮捕」の事例を挙げて、この問題の総括が必要であることを述べた。
5月20日に開催されたISF(独立言論フォーラム)主催シンポジウム「小沢事件とは何であったのか」で私は小沢事件の不当性を糾弾したが、この問題を総括することが必要不可欠である。諸問題があるが、最大の問題は巨額の政策活動費の使途を明らかにしないことが合法とされていることだ。
自民党幹事長に1年で10億円もの政治資金が寄附されて使途が明らかにされていない。政治資金規正法の網に巨大な穴が開いている。まずは、この穴を塞ぐことが先決。政治資金規正法第21条の2の2項を削除して政党から政治家個人への寄附を禁止すればよい。あるいは、百万歩譲って政策活動費の使途を領収書添付で100%公開することを義務付ける。最低限、この措置が必要だが、この内容が法改正に盛り込まれる可能性は低い。主権者である国民はこの部分を見落としてはならない。
大山鳴動して鼠一匹の状況を許さないことが最重要だ。
【あわせて読みたい】