<企業秘密をバラしてる?>要約・ドワンゴ川上会長の新刊「コンテンツの秘密」

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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読んでもまねは出来ないだろうと言う自信があるか、もしくは停滞気味のコンテンツ業界に喝を入れようとの意図だろう。ドワンゴ会長・川上量生氏の新刊「コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと」(NHK出版新書)の内容がすごい。
スタジオジブリ・プロデューサー鈴木敏夫氏との共同作業で学んだジブリのもの作り、ドワンゴの着メロの秘密など、読むものにとっては企業秘密ではないかと思われる事柄が惜しげもなく披露されているのである。
これから書くのは筆者なりに理解した本書「コンテンツの秘密」の要約である。もちろん書評のルールに従って、細部は実際に読まないとわからないように工夫した要約である。

  • ジブリのアニメーションのすごいところは背景の情報量である。
  • 情報量は背景の線の多さで決まる。ジブリのアニメはストーリーが中心ではない。
  • 宮崎駿は、書きたい画が先にあって、その画をストーリーで肉付けする
  • 子息の宮崎吾朗監督もそれなりに優れている。
  • コンテンツは各個人の脳内に描かれた(脳内でデフォルメされた)現実のシミュレーション(模倣)である。
  • コンテンツ間での競争が激しければ激しいほど、その内容は似たものに収斂してゆく。(陳腐化する)

筆者は思います。同じようなテレビ番組ばかりになるのはマーケティングで作っているからで、当たるように、見てくれるように、創ると同じようになってしまうのは避けられないことなのでしょうか。川上さんもここに覇権を持っています。

  • クリエイターに必要なのは同じパターンであることを認識させないための工夫である。
  • ヒットするのはユーザーが主観的に重要だと思う情報である。これには個人差があるが、普遍的なのは本能的なものである。
  • ドワンゴの着メロは他社より音を大きく感じさせるため、違う楽器で同じメロディを演奏して厚くしたので売れた。
  • 人は、とにかく大きい音を好む。
  • AI(コンピュータによる人工知能)は実現する。
  • 予告編は金がかかっているところだけをつなげ。
  • すべての大監督は(ストーリーではなく)表現に行き着く。

最後は黒澤明監督の「夢」とか、宮崎駿監督なら「風立ちぬ」とか、よくわかります、でも筆者(高橋)は表現より、ストーリーの面白いものが好きです。
以下、若干の意見を書いておきます。

  • ヒットするのはユーザーが主観的に重要だと思う情報である。これには個人差があるが、普遍的なのは本能的なものである。

ということですが、これは、かのフロイト先生がずいぶん昔に見抜いていたことは以前、書きました。つまり人間の根源的な主観はこの2つ。エロスとタナトス、生と死です。性と暴力です。
大概はその通りで、この通り見抜くのはすごいことです。ひとつたりないとすれば筆者の意見はこうです。

「クリエイターは、自分が主観的に重要だと思うことを、ユーザーが重要だと思うかどうかを忖度せず表現すべきである。」

 
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