<元海上自衛隊トップ・海将が誤解を指摘>平和安全法制では「存立危機事態」以外で日本の「武力の行使」はできない


伊藤俊幸[元・海上自衛隊 海将]

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今回のテーマは「武器の使用と武力の行使は違う」ということについて、わかりやすく説明をしてみたいと思います。

筆者が、9月16日の「地方公聴会」に公述人として参加し、意見陳述をさせてもらって思ったことは、「他国に行って戦争(武力行使)できる国になる」との誤解が解かれていないということです。

はっきりと申し上げます。

この平和安全法制では、「存立危機事態」以外で、「武力の行使」ができるようにはなっていません。つまり日本有事である「武力攻撃事態」と今回の「存立危機事態」以外では、日本は「武力の行使」はできません。

それ以外の条文に記載されているのは、「武器の使用」です。我が国における「武器の使用」は全て警察官職務執行法第7条が原点となっています。

「警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、『正当防衛』若しくは『緊急避難』に該当する場合等を除いては、人に危害を与えてはならない。」

我が国のみならず国際社会で認識されている「武器の使用」とは「警察行動」の一つで「相手の動きを止める」ことです。これは「軍事行動」である「武力の行使」、つまり「相手を排除する」行為と明確に区別されています。

ではこの対象は誰でしょうか? 日本が「武器を使用」する対象は基本的に犯罪者か犯罪集団なのです。

2001年12月海上保安庁巡視船が不審船と銃撃戦になった事件はご承知の通りです。これは結果的に相手側が自爆し日本側が排除したように見えましたが、海保巡視船の行動は停船を目的に船体射撃した武器使用でした。

この事案により停船目的の武器使用が結果的に人に危害が加わる所謂「危害射撃の免責」が海上保安庁法で認められました。但し、もし攻撃してきた相手が軍艦の場合、海上保安庁法上の武器使用では対処できません。

軍艦は国家そのものを意味しますから、対処は「武器の使用」ではなく「武力の行使」が視野に入り、「防衛出動」をかけるか否かという議論になるのです。この不審船は引き上げた結果北朝鮮のものと分かりましたが、いまだ北朝鮮は認めていません。

今回「駆けつけ警護や武器等防護で他国を守るため武器使用ができるようになり、他国と戦争になる」といわれますが、あくまで「武器の使用」の対象は犯罪者、犯罪集団レベルであり、当該国と戦争することにはならないのです。

 

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伊藤俊幸

伊藤俊幸(いとう・としゆき)元海上自衛隊トップ・海将。 昭和33年生まれ。防衛大(機械工学)卒業。筑波大学修士課程修了。海幕防衛部防衛課(平成6)、潜水艦あらしお副長兼航海長(平成8)、潜水艦はやしお艦長(平成9)、外務事務官(平成11)、第2潜水隊司令(平成14)、海幕監理部総務課広報室長(平成15)、海幕指揮通信・情報部情報課長(平成18)、情報本部 運用支援担当情報官(平成21)、海幕指揮通信・情報部長(平成22)、海上自衛隊 第2術科学校長(平成23)、統合幕僚学校長(平成25)を経て。平成26年、呉地方総監。平成27年退職。