<甘くはない?電力小売自由化>切り替え予定は全世帯0.1%未満という現実


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

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4月1日、家庭向けの電力小売が全面自由化される。では実際、どのくらいの人々が、電力の購入先を今の大手電力会社から切り替えるつもりだろうか?

2月5日付けの日本経済新聞朝刊では、「購入先の変更を決めた消費者が関東と関西で約5万4000件に上ることが分かった」と書かれている。これは、経済産業省の関係機関が1月29日時点で集計したものだ。

こう書かれると、いかにも多くの世帯が切替えをするつもりだと思ってしまうかもしれない。しかし、全国には5641万世帯がいる(2015年1月1日現在;総務省調査)ので、実は全体の0.1%にも至っていない。

記事ではまた、「現状のペースならば問題ないが、経産省は申込件数が今後さらに増えるとみている」と書いている。更に、「電気の購入先の変更手続きは簡単」とのタイトルで、図を掲載して説明している。

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(出所:2016.2.5 日本経済新聞朝刊)

この切替え予定数については、東京電力管内で約3万3千件、関西電力管内で約2万1千件、北海道電力管内で約400件、九州電力管内で約100件、中部電力管内で100件未満。東北、北陸、中国、四国、沖縄の各管内はゼロ。

日経新聞は、大手マスコミの中でも特に、今回の電力小売自由化の急先鋒として電力自由化至上主義になったかのような報道を続けてきた。だから、どうしても切替え件数を増やしたいのだろう。

更に、経産省が昨年11月18日に発表した資料では、「8割の人は、少なくとも切り替えの検討はする意向」、「現時点で切り替えを前向きに捉えている(「すぐにでも変更したい」「変更することを前提に検討したい」)人に限っても、25%弱存在する」とのアンケート調査結果が掲載されている。

だが、現実はそれほど甘くない。役所や新聞社の思惑通りにはいかない。

今回の自由化は「家庭向け(小口需要分野)の電力小売」であるが、「産業向け(大口需要分野)の電力小売」は、2000年以降に順次自由化が進められてきた。それにより、既に電力市場全体の約6割(電力量ベース)が自由化されている。

電力市場では、大口需要分野(産業向け)は比較的儲かる一方で、小口需要分野(家庭向け)はあまり儲からないとされる。

その大口需要分野での自由化の状況を見ると、新電力は834社だが、供給実績があるのは97社、販売シェアは7%程度。(数値の出所は、2015年11月の経産省資料。)

比較的儲かる「産業向け」でさえ、この程度しかない。果たして4月以降、あまり儲からない「家庭向け」で、どのようになるだろうか・・・?

 
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石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。