<経産省は電力業界に厳しく、ガス業界に甘い>「ガス会社のガス導管」vs「電力会社のガス導管」のゆくえ


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

***

今年1月6日の日本経済新聞によると、経済産業省は、ガス自由化の一環として、

「電力会社が持つ発電用の導管(パイプライン)を企業向けのガス供給にも転用できるようにする」「ガス会社の導管を使わず、工場などに直接ガスを送れるようにして料金の引き下げを促す」

とのこと。
これが実現すると、電力会社が自ら輸入したLNG(液化天然ガス)を、自ら敷設した導管で、ガス需要家に直接供給することができるようになる。これは、ガス自由化の趣旨からすると、当たり前の規制緩和だ。

しかし、これですら、競争が起こるような制度改革には至らないだろうと私は思っている。これには、理屈と感情の二つの面から強い反対論がある。

まず、理屈の面からの反対論。

都市ガス会社の導管で繋がれた顧客が他者に奪われると、その導管を敷くために使った費用を回収できなくなる。奪われる顧客が工場など大口需要家だと、売上げ収入は大きく減る。そうなると、その売上げから充てていた導管費用回収分を、他の需要家が負担しなければならなくなる。これが高じると、小口需要家である一般家庭のガス料金を上げなければならなくなる ーー というもの。

次に、感情の面からの反対論。

これは単純で、都市ガス会社にしてみれば、電力会社など他のガス供給者に大口顧客を奪われたくない。それと、今回のガス自由化では、大手都市ガス3社の導管部門が「法的分離」を強制されることになるが、大手3社の猛反対にもかからず半ば無理やり経産省が押し切った経緯がある。このろくでもない法的分離について、大手3社は最終的には仕方なく受け入れて役所の業績にしてやったのだから、細かなルール作りでは大手3社を守るようにしろよな!といった具合だろう。こうした役所と関係業界の間での取引は、しばしば行われる。

以上二つの理由のいずれも、何ともおかしな話だ。都市ガス会社の大口顧客が、都市ガスから『他のエネルギー(都市ガス以外のガス・重油・電力など)』に燃料転換する場合や、事業そのものから撤退する場合を考えれば、同じように導管費用は回収できなくなる。しかし、その場合には何ら制約はない。

この日経新聞記事には、

「東京電力は千葉県の袖ケ浦や富津地区にLNG基地を持っている。周辺の製鉄所や石油化学工場には安価なガスへの需要が強く、規制緩和を受け基地からの直接供給に乗り出す見通し」

とある。この「安価なガス」とは、東京ガスによって現在供給されている都市ガスとは種類が異なるガス。つまり、東電が供給しようとしているのは、都市ガス以外のガスであり、『他のエネルギー』なのだ。

この記事にはまた、

「工場などで大量のガスを使う企業にとっては、調達先の選択肢が広がり、製造コストの引き下げにつなげられる」

と期待感に満ち溢れた書き方になっている。だが、今のままでいくと、この記事の通りにはならない。

経産省は以前からそうなのだが、電力業界には異常に厳しいが、ガス業界には逆に甘いところがある。今回も、ガス業界の言い分を聞き入れ、自由化の趣旨を歪めてでも、なんやかんやの理由を付けてガス業界に味方するだろう。経産省としては、所詮その程度の受け止めなのだろうが、本当ならば大口自由化による恩恵を未だ受けられていない需要家のことをもっと考えるべきだ。

もし、理想的な規制緩和が実現するならば、私は逆立ちして皇居を一周しても良い。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.

石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。