フジテレビのタブーに踏み込んだショーンKの後任モーリー・ロバートソンの「空気を読まない発言」に期待


吉野嘉高[筑紫女学園大学・教授/元フジテレビ・プロデューサー]

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毒にも薬にもならない言葉でお茶を濁すニュースキャスター(特にNHK)にうんざりしていたところ、久々に目が覚めるようなコメントを聞くことができた。

フジテレビ系報道情報番組「ユアタイム~あなたの時間~」(4月8日金曜深夜の放送)でのモーリー・ロバートソン氏の発言。モーリー氏は、経歴詐称問題で放送開始前に降板したショーンKことショーン・マクアードル川上氏の後任である。

違法カジノ店での賭博行為が発覚したバドミントン男子の桃田賢斗、田児賢一両選手が会見で謝罪したことについてモーリー氏はこう述べた。

「問題の根源にある構造、例えば『闇カジノ』は何が闇なのか? その闇は・・・日本社会に定着していて、ある意味我々の日常の中にも溶け込んでしまっているわけですよ。これをどうして摘出できないのか・・・ハードな向き合い、これが求められていると思う。」

「ありきたりなコメントじゃないか!」と思うかもしれない。しかし、この発言があったのはフジテレビの番組なのだ。

【参考】<『フジテレビはなぜ凋落したのか』著者が指摘>テレビがスクープをとれない原因は蔓延する「横並びで安心する空気」

「お台場カジノ構想」を練り、「世界最高レベルの複合型エンターテインメントゾーンの創出」を画策していた、あのフジテレビで、違法ではあるものの、カジノの闇と「ハードに向き合え」と力説しているのだ。

さらにモーリー氏はこう続ける。

「ギャンブルというのは一般的に依存するようにできているんですね。・・・どうやってリハビリするのか、そこもみんなで話し合っていきたいなと思います。」

「みんなで話し合おう」あるいは「みんなで議論が必要だ」というのはこの手のコメントの常套句。反省を込めて白状すると、筆者も早朝の情報番組でニュース解説をしていた時多用したものだが、「無難な逃げ口上」でしかない。

もしも本気ならば、是非フジテレビの番組で「カジノ」を絡めてギャンブル依存症やその治療について取り上げて、「みんなで話し合って」いただきたい。おそらく、できやしないだろう。社内のタブーだから。

いやいや、コメントに難癖を付けるのが本稿の趣旨ではない。筆者は「よくぞ言った!」と拍手したい気分なのだ。

フジテレビでは「カジノ」はデリケートな案件。現時点で「カジノ法案」は成立のめどがたっていないものの、安倍首相が「成長戦略の要」と位置付けていたのは周知のとおり。

社員コメンテーターであれば、

「『ギャンブル依存について議論しろ』と言うと、“カジノ法案”に反対しているように聞こえやしまいか・・・」

「ここで余計なことをしゃべると、上司から睨まれ次の異動で閑職に飛ばされるかもしれない」

といった不安が頭をよぎる。たとえ常識的なコメントでも、カジノに言及することなんてできないだろう。「社内の空気を読み」、会社の上層部の意向をおしはかり、発言を自主規制したはずだ。

【参考】<フジ転落原因は「世間の感覚」とのズレ>藤井フミヤ長男のフジテレビ入社は「コネ採用」か?[吉野嘉高]

モーリー氏は社員ではないが、当然カジノに関してのフジテレビの立ち位置は知っていたはずだ。それでも「社内の空気を読まず」、一歩踏み込んで問題提起したジャーナリズム精神をリスペクトしたい。

このように書くと、筆者が細かいことに拘泥していると思う人もいるだろう。しかしながら、細かい自主規制であっても積み重なれば現場の手枷足枷となるのだ。その結果、番組制作者が認識しているかどうかはわからないが、テレビ報道はにっちもさっちもいかない不自由な状態に追い込まれている。

「空気を読まない発言」は委縮するテレビ報道の現場に風穴を開き、風通しを良くする。それは閉塞感に覆われている日本社会の風通しを良くすることに繋がるはずだ。

 

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吉野嘉高

吉野嘉高(よしの・よしたか)広島県生まれ。1986年フジテレビ入社。情報番組、ニュース番組のディレクター、プロデューサーを歴任。2009年、フジテレビを退社。現在、筑紫女学園大学現代社会学部教授。著書に「フジテレビはなぜ凋落したのか」(新潮社)など。