<安倍首相「ワイドナショー」に出演>安倍首相「最近、楽しかったことは?」の質問に松本人志「ノーコメント」


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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筆者は北海道と京都の衆院補選を直後に控えた4月17日放送のフジテレビ「ワイドナショー」に安倍晋三自民党総裁・内閣総理大臣総理大臣の出演は政治的公平の観点からよろしくないのではないか、と書いた。(http://mediagong.jp/?p=16494

他局ならばある種の判断によって、この番組の企画自体が成立不可の判断を下されていたであろう。結局、4月14日に収録済みの「ワイドナショー」は、同日21時26分に発生した熊本地震の発生を受けて中止された。

そして、その収録済みの番組が5月1日に放送された。

「ワイドナショー」という番組は「ふだんスクープされる側の芸能人が個人的見解を良いに集まる場所」である、と冒頭で明示されているので、ある種の「芸能人=有名人」である安倍総裁・首相には充分出演資格があるわけである。

【参考】フジテレビ 安倍首相と松本人志共演の「ワイドナショー」を放送休止

本論を進めるにあたって筆者の立場を述べておく。筆者は「放送法が定める公平中立の原則は廃止すべきである」との考えである。

その立場から鑑みて、今回の安倍首相出演の「ワイドナショー」は基本的には認めるべきであると考える。ただしその場合は時期が重要である。衆院補選の直前に一党の党首だけを出演させるのはダメである。他党の人々はもっと声を上げるべきであるように思う。

普段、放送の公平中立に過剰に反応しすぎる安倍総理が、その禁を破って放送が行われる予定だったのである。結果的に放送は衆院補選の結果が出た後になり、余震がまだ続いている中での放送となった。人々はこの放送をどう見たのか。

筆者が視聴した感想を書いてしまえば、「番組は面白かった」である。公平に執着するあまり平均的なそつのない放送にするより、こういう偏った放送の方が何かが見えてくるということだろう。しかし、他方で「番組は物足りなかった」とも感じた。

バドミントンの有力選手の賭博問題が話されれば、「お台場にカジノがあれば」という話になる。フジテレビにアドバンテージが与えられる。外国人観光客増加の話になれば、インバウンドで景気浮揚。安倍首相にアドバンテージが与えられる。騒音などによる幼稚園建設反対騒動の話では、安倍首相が自説を展開するきっかけになる。

こういう偏った放送が面白いことは事実だが、その時、作り手が決してやらないようにしなければならないことは「お説拝聴」になってしまうことだ。しかし、今回の放送では、残念ながら番組全体のトーンは「お説拝聴」に傾いていたように感じる。

【参考】<政治的な圧力はあるのか?ないのか?>テレビ各局・夜のニュースキャスター全員に聞く

HKT48の指原莉乃が「ネットでの悪口を法律で取り締まって欲しい」と、安倍首相に要望する。安倍氏は少し口が滑って「今でも批判、誹謗、中傷は取り締まれる」と答える。「正当な批判は取り締まる対象にはならない」以後、注意深く安倍首相は「批判」と言う言葉を使わなくなったように筆者は思う。

東野幸治が「安倍さんはイラチ(短気)なんじゃないですか」と聞く。安倍首相がイラチであることは筆者も指摘しているが、特別委員会で「早く質問しろよ」などとヤジを飛ばして謝罪した件などを思い浮かぶ良い質問だ。安倍首相は「あれは独り言だったんです」と答えて、並み居る芸人の笑いを取る。

笑いで返すシャレっぽさは筆者は大好きだが、笑いはすべてを誤魔化してしまうという効用も持っていることも忘れてはならない。

松本人志の考えがよく分かる発言もあった「おじいちゃんたちの作った国が好きだ。もう、どこの国にも指図されたくないし、謝って欲しくない」。これは、安倍氏の「美しい国」と同じ考えである。

国粋主義者でありながら、親米の立場という矛盾を抱えた安倍首相の答えは「米ソ冷戦が終わり、ソ連が崩壊し、アメリカの一極になった」だった。だからどうするかまでは言っていなかった。どうやら安倍首相はサミットに先がけた5月6日、ロシアのプーチン大統領と会談するらしい。そこで何が話し合われるのか、何かが決まるのか。

安倍首相が最後に松本に質問する。

「最近、楽しかったことは何か」

「すべらない話」の順番が回ってきたというわけだ。しかし、松本の答えは「ノーコメント」。

「ワイドナショー」は、面白かった。でも物足りなかった。大抵のプロパガンダは、最初、娯楽の顔をして人の心に忍び込んでくるのかもしれない。

 

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