<笑点>「初回だから」では言い訳できない新司会・春風亭昇太


高橋維新[弁護士/コラムニスト]

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2016年5月29日放映の『笑点』を見た。桂歌丸が番組から退き、跡を継いだ春風亭昇太が司会を務める1回目の放映回である。

昇太の解答者枠に収まった新メンバー・林家三平も今回一緒に発表されたが、これについては云々する段階ではないので、本校では単純に昇太の司会ぶりについて書いてみたい。

前回の放映回で昇太が新司会だと発表された時に筆者が感じた危惧は、「昇太はきちんとツッコミができないのではないか」ということだ。そして結論から言えば、今回の放送を見て、この危惧がもろに当たってしまった印象である。

ツッコミは「本心からツッコんでいる」ように見える(=見せる)必要がある。それに必要なのは、演技力である。歌丸なら、小遊三のひどい下ネタや、木久扇のしょうもない解答に対して、本心から呆れているように見えるツッコミを入れることができていた。声の調子も迫真性があったし、きちんと呆れた表情をしていた。

ところが昇太は、まず全体的に笑ってヘラヘラしすぎである。ツッコミも笑いながら入れるので、本心から怒っているようには全然見えない。表情も笑ったままなので弛緩しっぱなしなのである。これでは、落語家どうしで馴れ合っているようにしか見えない。

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解答者が全力でやったバカには、全力で叱りつけてこそ生まれるのが笑いというものである。ボケが引き起こしたズレにツッコミが笑ってしまうと、客が「ツッコミもボケと同じ(ふざける)立場にいるんだな」と見てしまい、その後ツッコミを入れられても「台本に書いてあることを演技でやっているんだな」というのが分かってしまって、白けてしまうのである。この点は、歌丸を範として直していって欲しい。

他の場面でも、昇太は全体的に演技力が足りていないように思う。三平が昇太の独身をイジったところ、昇太が座布団を全部持っていくよう指示していたが、「死にぞこない」とイジられた時の歌丸とは異なり、全然怒っているように見えなかった。

また、笑いのパターンも少ないように感じた。木久扇が「アルジェリア」というワードを出した時は、大抵「ナイジェリア」でオトしてくるのだが、昇太はそのまま木久扇に答えまで言わせてしまっていた。歌丸だったら、先に「ナイジェリア」と自分で言ってしまって解答をつぶすというパターンの笑いを見せたところである。

1問目のお題でも、円楽が「『入る』に『客が2人』で『しのぶ亭』」という好楽イジリの解答をしていたが、歌丸だったら「そんなに言っちゃあかわいそうだよ」などと発言していったん好楽を持ち上げ、その後またオトすというかぶせを入れてきたはずである。しかし、昇太は何もしなかった。

しかも、今回は解答者による司会者イジリもまだ控えめだった印象である。逆に、(歌丸がやっていたような)司会者による解答者イジリもまだまだ少ない。両方ともこれからもっと入れていって欲しいが、それを踏まえてやはり昇太が他のメンバーを「○○師匠」と呼ぶのは止めた方がいいと思う。

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業界では普通の呼びかけなのかもしれないが、呼ぶ方と呼ばれる方の間にどうしても少し距離を感じさせてしまうので、その状態で昇太からメンバーをイジると、見ている方としては「師匠と呼んでいる人をいきなりボロクソに言った」と捉えて引いてしまう可能性がある。

さて、歌丸が入れていたこれらのツッコミや、かぶせや、解答者イジリは、ほとんどパターンが決まっていて、意外性がなかったのも確かである。高齢者向けの番組作りをしている笑点としては、それでいいのかもしれないが、せっかく新しく司会になった昇太には、歌丸のパターンを打破する試みを見せてほしいところである。

今回、歌丸のパターンを踏襲しなかったことから、今後「代替わり」がもっと前面に打ち出されていくのかもしれないが、それにしても何もしなさすぎであった。せめてその片鱗だけでも見せて欲しかったところである。

今回の昇太は、答えを言わせて、座布団をやるなり奪うなりして終わった。つまり、ほとんど単純な「進行」しかしていなかったのである。

笑点の笑いは、台本でガチガチに固められているというのはよく言われているところである。もしかしたら、お題だけなじゃくその他のツッコミの部分などにも固い台本があるのかもしれない。昇太が台本を守った結果、進行しかしなかったのだったとしたら、彼をそんなに責めることもできないのだが、せっかく司会が変わったのだから台本をぶち破るぐらいの気概を見せてほしい。笑いで大事な「意外性」は、台本を破った彼方の地平でつかめるものである。

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もっとも、元が高齢者向けでそんなにおもしろいものではないので、ここまで厳しくこだわる必要はないかもしれない。笑点で心から笑えていたような人は、今回のオンエアを見て「歌丸が司会のときよりおもしろくなかったな」なんて思わないかもしれない。

だからといって「元がおもしろくないのだから別にどうでもいいでしょう」なんて感想を書くのは流石に突き放し過ぎだと思うので、改善の提案をしている次第である。ここで何も言わないのは、お笑いというコンテンツを眼中に入れないに等しい。無視は、厳しいダメ出しよりも残酷なことだと切に思う。

まとめると「初回だから」では言い訳できない粗がいくつも目立ったというのが正直な感想である。「若手の昇太を司会に据えたのは、10年・20年同じ司会でやり続けたいからだ」という見方もあるところである。

この出来を続けていると、それも覚束ないだろう。「落語家」は「芸人」よりおもしろくないと若い人に思われてしまうと、落語にも客が呼べなくなってしまう。

 

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高橋維新(たかはし・いしん)弁護士、コラム二スト。1987年、東京生まれ。2006年、東京大学法学部入学。2010年より「マヒ郎」のペンネームでファミ通町内会へ「ハガキ職人」として投稿を始める。現役ハガキ職人を続けながら、2012年に司法試験合格。2013年、弁護士登録(函館弁護士会)。ファミ通町内会長(第5代)。