<厚労省が立ち入り調査>電通への強制調査に恐怖するテレビ局・IT企業・新聞社


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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11月7日、厚生労働省が長時間労働問題で電通に強制調査に入った。

「電通の夜10時消灯」はいかにも中途半端である。日本最大の、世界でも有数の広告代理店としてのリスク管理としては、間違っていると言ってもよい思う。不祥事企業の対策・相談にものるであろうプロ・電通として、これはまずい。

「夜10時消灯」と聞いて、多くの人が思うのは「えっ?! 毎日、夜10時まで働かないと仕事が終わらなの?」という疑問であろう。

反省の姿勢を示すためにインパクトを与えるなら、夜7時消灯くらいにしなければ効果は全くないだろう。これなら毎日2時間残業しても法定労働時間に収まるという計算も出来る。

NHKニュースの電通社員インタビューでは「夜10時消灯で、仕事の終わらない人は朝5時から来ている」との証言もあった。つまり広報効果として、「夜10時消灯」は逆効果である。これでは広告のプロの名が泣く。

出来事を簡単に振り返っておこう。電通で24歳の女性社員が自殺し、過労死と認定された。

【参考】「残業100時間で過労死は情けない」 教授処分の是非

その後、厚生労働省の「過重労働撲滅特別対策班」(通称・かとく)が労働実態について立ち入り調査を断行した。「かとく」は、いわゆる「ブラック企業」対策として設けられた特別なチームだ。

厚労省のホームページによれば、「かとくに所属する労働基準監督官は東京に7名、大阪に6名。違法な長時間労働を強いる企業のなかには、パソコンに保存された労働時間のデータを改ざんするなど悪質なケースも多いことから、それに対応するための高度な捜査技術が必要となってくるため、専門機器を用いてデータの解析を行い、過重労働が認められる企業などに監督指導や検査を行っていきます」とある。

労働基準監督官は厚労省の職員だ。特別司法警察職員として労働関係の犯罪を捜査し、逮捕できる権限を持っている。つまり、労働基準監督官は、労働関連の事件を専門に扱う警察官なのである。労基署には「手錠」もある。

労基署の是正勧告を無視するなどして書類送検されると、検察庁で不起訴になるか、裁判で無罪を勝ち取らなければ有罪となり、前科がつくことになる。東京、大阪及び名古屋地検に設けられている特別捜査部(地検特捜部)や麻薬取締官と同じだと思えば良い。

「かとく」による電通立ち入り検査があったことで、戦々恐々としているのが、テレビ局やIT企業、新聞社などであろう。電通とほぼ同じ労働実態だからである。

まず、法律で決められた労働時間を確認してみよう。

「使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません」

これが法律である。これ以上労働時間が増える時は使用者と労働組合が協定を結ぶ。労働基準法第36条は「労使協定をし、行政官庁に届け出た場合においては、その協定に定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」として、残業や休日労働を行う場合の手続を定めている。これは法律の名を取って通称「三六協定(さぶろくきょうてい)」と呼ばれる。

原則としては、延長時間の限度は1か月45時間、1年間360時間であるが、三六協定に定める時間数・日数の上限は、1日2時間の上限制限を除けば、法定されていない。細かい決まりが他にもあるがこれらを破れば6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金である。

サラリーマンがいつの間にか前科者になってはたまらない。テレビ局やIT企業、新聞社の管理職は部下に「早く帰れ」「週2日は休め」と、いま、口を酸っぱくして言っていることだろう。「残業は長くやったとしても法定時間内に収まるよう申告しろ」とも言っているかもしれない。しかし、この示唆も犯罪である。

厚労省担当の記者はかとくの捜査の手がどこまで伸びるか探れとトップに言われているだろう。もちろんこれは仕事ではないから、記者にはその命令を聞かない権利がある。

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しかし一方で、早く帰っては仕事が終わらない実態がある。そこでしわ寄せが来るのはテレビ局の場合、下請けプロダクションから派遣されているディレクターやADである。

彼ら彼女らもプロダクションと三六協定を結んでいるが「みなし残業」という仕組みで、残業代は既に給料に含まれているという扱いをされていることが多い。

それから、マクドナルドで有名になった名ばかり管理職というのがテレビ局やIT企業、新聞社には意外と多い。ある程度の年齢になった記者などは平社員ではなく役職がつくのである。

この人々には残業代もつかないし、法律違反にもなりにくいので、ここぞとばかりに多くの仕事が回ってくる。管理職といっても名ばかりで平社員と同じ労働待遇であると認定されれば違法の範疇だ。取り繕っても実態が優先する。

ところで、そもそも労働基準法は工場労働者などのブルーカラーが過重労働にならないように考えられている。それを記者などの職種に運用で適用しよう言うのには無理がある。

厚労省は、過去に「ホワイトカラーエグザンプション」という制度で、ホワイトカラーの労働時間管理を改めようとしたが、「残業代0法案」と報道されて、挫折した過去がある。ホワイトカラーの生産性をどう評価したらよいのか?

それにしても現在のままの仕事量で広告代理店やテレビ局やIT企業、新聞社が残業を少なくするには、今より3倍くらいの雇用をするしかない。いっそのことこれらの企業は、全部フリー契約にして、出来高払いにしたらどうだろう。

 

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