<ゴルフトーナメントの珍事>不注意が珍プレイを招くプロゴルファーを襲った災難


両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

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すこし大げさかもしれませんが、ゴルフトーナメントの11月第2週は珍事の週となりました。

太平洋マスターズで松山英樹が23アンダーでぶっちぎりの優勝をしましたが、その松山が1ラウンドでアンプレアブル1回、池ポチャ2回というのもかなりの珍事でした。しかしそこは世界ランク6位、トータル69の3アンダーで上がっていますからさすがです。

驚くべき珍事が女子の方で起こっていました。伊藤園レディスの初日に上原彩子が141打を記録していたのです。なんと69オーバー、もちろん初日最下位の94位で、93位が11オーバーですからその差58打という大珍事です。

1ラウンド141打というのは、素人が初めてコースに出たときに打つことがあるかもしれませんが、ふつうは考えられないスコアです。上原彩子といえばアメリカのツアーを主戦場にしているトッププロ、それがなぜこのようなことになったのか、もちろん理由があります。

ゴルフはボールにノータッチで進める競技ですが、この日は雨のためコースコンディションが悪く、ボールが地面にもぐってしまったり、泥がついてしまったりすることがあるため、特別ルールで行われました。

「リフト&クリーン」という、汚れたボールを拾い上げて泥を拭き落として良いというルールです。問題は拾い上げたボールの置き方でした。ごく大ざっぱに「プレイス」か「リプレイス」かの違いと言えば分かりやすいと思います。

「リプレイス」はボールを元あった場所に正確に置きなおします。パターの時にマークして元の場所に正確に置き直す、あれと思えば良いでしょう。

一方、「プレイス」ならボールがあった場所から6インチとかクラブ1本分の長さとか主催者側が決めた範囲でホールに近づかない場所へボールを置き直すことができます。今回のルールは元の場所に置き直す「リプレイス」でした。

しかしアメリカツアーでは通常このような場合は「プレイス」なので、上原選手は「プレイス」だと思い込んでラウンドしてしまいました。

この「リフト&クリーン」の問題は10年ほど前にも尾崎直道、深堀圭一郎、丸山大輔の同組3人が失格になった有名な出来事があっただけに、選手にとっては荒天の日の最重要注意事項だったはずです。スタート前に貼り出されたローカルルールを確認しなかった上原本人の責任であることは間違いありません。

ただ少し疑問も残ります。結果として上原彩子のキャデイもこのルールを確認していなかったことになります。

さらに同じ組で回った上原美希、東浩子の両プロはペナルティを受けていませんからおそらくこの日のルールを正しく理解していたのでしょう。しかし両プロとも上原彩子に違反の指摘をしていません。

かつて尾崎将司の怪しげな動作をグレグ・ノーマンが競技委員に指摘した有名な話がありますが、同伴競技者が気づかなかったというのは理解に苦しみます。知っていたのに先輩に遠慮したとか、競い合うライバルだからと指摘しなかったというのも考えにくいのですが。

上原彩子はルール改正により故意の不正行為ではないということで失格にはなりませんでした。そのかわり、女子プロゴルフ18ホール競技では最悪のスコアが公式記録に残るという不名誉なことになってしまいました。

【参考】<スコアを伝えないゴルフ中継>テレビは63才の老プロゴルファー「ベン・クレンショー」最後のマスターズをどう伝えたか

そして翌日、仮に全ホールでホールインワンをしても予選通過の可能性がゼロという状況にもかかわらず上原彩子は棄権せず2日目も競技しました。遠くから応援に来てくれる方々や推薦してくれたスポンサーさんがいるので、棄権などまったく考えなかったと語っています。2日目の結果は4アンダーの68、これぞプロです。

この伊藤園レディスではもうひとつの、テレビ解説者も未だかつて見たことないという珍事がテレビに映し出されていました。キャデイが池の水に胸までつかってボールを探しているという驚きの映像です。

東南アジアのとあるゴルフ場では、ショットが池に入ると5、6人の男がチップ目当てに一斉へ池に飛びこみボールを探してくれるという話を聞いたことがありますが、これは日本の女子プロトーナメントです。

発端は美人でスタイルもスイングも美しく、今年は初優勝もした今売り出しの松森彩夏の小さな不注意でした。18番グリーン上でマークして取り上げたボールを、キャデイに拭いてもらおうといつも通りポイッとトスしました。

ところがキャデイはなにかをメモしていて下を向いており松森プロの動きを見ていませんでした。トスしたボールはキャデイの頭に当たってグリーン上に落ち、コロコロと転がってなんと池に入ってしまったのです。

ならば別のボールで・・・、というわけにはいきません。こんなルールがあるのです。

【ゴルフ規則】
15-1(抜粋) プレーヤーはティーインググラウンドからプレーした球でホールアウトしなければならない。

池に落ちたあのボールを拾わない限り松森には2打の罰則がついてしまいます。2罰打は重大です。この時のキャデイは数年前藤田幸希プロにチャラ男とイジられたことのある田渕豊さんでした。

責任を感じて池に入って必死にボールを探し、5つほどボールを見つけたものの残念ながらどれも松森プロのボールではありませんでした。珍事は元チャラ男キャデイさんが11月の冷たい水の中に入ってまでプロとしての責任を果たそうとした光景でした。

この伊藤園レディスでは、ほかにも松森と同じ組で回った鈴木愛が「リプレイス」の際に落葉を払ったというペナルティもありました。

プロが真剣にプレイしている中で起きる珍事、珍プレイ・好プレイは野球に限らずおもしろいのですが、今回はこれほど珍しいペナルティが連発したこと自体が珍事だったとも言えそうです。

 

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両角敏明

両角敏明(もろずみ・としあき)テレビディレクター、プロデューサー。 バラエティ、報道、情報、すべての番組を手がけてきた。