国会の会期延長はTPP批准強行・年金カット法制定のための「数の横暴」-植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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安倍政権は臨時国会会期を延長し、TPP批准案および関連法案、「年金カット法案」の強行可決、成立を目論んでいる。さらに、「カジノ法案」の審議に入ることも決めた。

民主主義の基本は民意に基づく政治の実現であって、議会で多数議席を占有しているなら、何をやっても良いということにはならない。選挙の際に公約を明示して、どのような政治、政策を実現するのかを、あらかじめ明らかにすることが重要であり、こうした公約を明示した以上、その公約を守ることが必要である。

TPPについて、安倍自民党は、2012年12月の総選挙で、

「TPP断固反対!」

と大書きしたポスターを貼り巡らせた。安倍自民党は、TPP反対の姿勢をアピールして2012年12月の総選挙を戦ったのである。

また、年金給付を引き下げる法案について、主権者はまったく賛同していない。年金制度自体が一つの契約である。将来の年金給付について約束し、その約束に基づいて年金加入者が年金保険料を支払っているのである。

その年金支払いを、政府が勝手に引き下げることなど、とんでもない。制度を変更するには、主権者、とりわけ年金加入者の了承が必要不可欠である。

ところが、安倍政権は年金給付を引き下げる法案を国会に提出し、これを十分な審議もせずに衆院の委員会で強行採決した。各種調査でも、主権者の大半が、年金給付を引き下げる政府の無責任で横暴な姿勢を批判していることが分かる。

国会の会期延長は、TPP批准強行、年金カット法制定のための「数の横暴」を示すものである。各種情報番組は、TPPの詳細、そして、年金カット法の詳細を伝えるべきだ。

公共の電波を独占使用しているテレビメディアは、重大な公共性を担っているのであり、各種情報番組において、国民に重大な影響を与えるTPPや年金カット法案の問題点を、時間をかけて深く掘り下げて報道するべきである。

しかし、このような国政上の重大な問題をクローズアップしなければならない局面になると、必ず、芸能人の麻薬事案が表面化する。麻薬事案は、事前に綿密な内偵調査が行われることがほとんどで、問題表面化のタイミングは、捜査当局の判断に委ねられる。

このことから、政治権力は、人々の関心を重大な国政問題からそらすために、芸能人麻薬事案を表面化させることが多い。多いというより、ほとんどすべての芸能人麻薬事案は、政治権力の意向によって表面化タイミングが選定されていると言ってよいだろう。

TPPは米国が批准しなければ発効しない。安倍政権は合意に達した現在のTPP最終合意文書について、一切の修正を認めないとしている。

したがって、

*6ヵ国以上の批准完了

*GDP合計の85%を超える国の批准完了

の2つの条件が整わなければTPPは発効しない。そして、安倍政権は、この現行ルールを絶対に変えないと明言している。

このなかで、米国新大統領に選出されたトランプ氏が、大統領就任初日にTPPからの離脱を宣言することを改めて、ビデオメッセージで全世界に通告した。米国がTPP離脱をすれば、安倍政権が参加しようとしているTPPの発効はなくなる。

このことを、日本の主権者は、まず明確に認識しておかねばならない。このようなTPPであるから、日本の国会がしゃかりきになってTPP批准案を強行採決する理由はないのである。

主権者の大半は、拙速な採決ではなく、十分な審議を求めている。パリ協定のように、世界の動きが速く、日本が早く対応しなければ協定発効に間に合わないというようなケースでは、国会審議を急ぐ必要があるだろう。

しかし、TPPのように、カギを握る米国が離脱含みの行動を示しているなら、日本における審議は、より慎重に、より多くの時間をかけて行うべきである。

ところが、安倍政権は急ぐ必要のないTPPを拙速審議し、急がねばならないパリ協定批准審議を後回しにした。その結果、日本はパリ協定で大幅な対応の遅れを示してしまったのである。

安倍政権は、この期に及んで、なお臨時国会でのTPP批准案および関連法案の強行採決、強行制定を目論んでいる。この暴挙に対して、良識ある政治勢力と、良識ある主権者が立ち向かって行動を続けている。

国会審議での強行採決が予想される局面では、議員会館前での座り込みが連日実行されてきた。また、通常国会の開会中から現在の臨時国会開会中まで、毎週水曜夕刻の情報共有会議、議員会館前抗議行動が継続して実施されてきた。

これ以外にも大規模集会、デモ行進が展開されてきた。11月30日水曜日も、昼間の時間帯には東京有楽町マリオン前で街宣活動が展開され、

午後5時からは衆議院第2議員会館多目的会議室で「情報共有会議」が、午後6時半からは、衆議院第2議員会館前において、「TPP批准阻止の抗議集会」が開催される。

主権者が積極的に行動し、良識ある政治勢力と連帯して、安倍政治の暴走を阻止する。この行動の重要性は極めて大きい。

TPP成仏がトランプ新大統領頼みという点は、いささか歯がゆい感もあるが、「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕まえる猫は良い猫だ」の言葉もある。

トランプ新大統領によるTPP離脱宣言が現実のものになれば、これが、トランプ氏勝利が日本の主権者にもたらす最大の朗報ということになる。TPPの完全成仏を目指しつつ、日本のすべての主権者に、TPPの真実を正確に伝える努力を、さらに積み重ねなければならない。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。