蚊帳の外に置かれている安倍外交の現実 -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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日本には拉致問題があるために南北朝鮮の首脳会談開催について無条件でこれを歓迎できない事情がある。しかし、拉致は連合国軍と北朝鮮が戦争状態にある下で発生した事案であり、国交関係を有する友好国間において発生した事案ではない点には留意が必要である。

「アリの一言」というブログ主宰者が、北朝鮮分断の経緯についての情報を提供されている。同ブログは、北朝鮮分断の経緯について文献から、奈良女子大名誉教授中塚明氏とオーストラリア国立大教授ガバン・マコーマック氏の指摘を紹介している。

改めて転載させていただく。

「一九四五年八月十五日、日本が敗北するとすぐさま朝鮮建国準備委員会(委員長・呂運亨)が結成され、八月末まで朝鮮全国各地に一四五もの人民委員会がつくられる勢いでした。九月六日には、朝鮮人民共和国の樹立が宣言されました。首席にアメリカで活動していた李承晩、副首相に呂運亨という布陣で、幅ひろい組織をめざしました。しかし、アメリカは南朝鮮に軍政を施行し、朝鮮人民共和国を認めず、きびしく弾圧しました。・・・朝鮮人自身による独立政府樹立の運動がつづく中・・・アメリカは、一九四七年、創設まもない国連に朝鮮問題を持ち込み、国連監視下の南北朝鮮の総選挙を可決、翌年には南朝鮮だけの単独選挙実施方針を示しました」(中塚明奈良女子大名誉教授『日本と韓国・朝鮮の歴史』高文研)

「そもそも朝鮮の分断は、アメリカの一方的決定によるものであった。・・・終戦直後の一九四五年九月、朝鮮に上陸し、朝鮮南部に軍事的支配を樹立したアメリカは、すでにその行政区域内に育っていた朝鮮人自身の萌芽的共和国(呂運亨主導下の朝鮮人民共和国)とその草の根の組織である人民委員会の承認を拒否した。・・・日本の植民地体制と植民地統治が崩壊し、代わりにアメリカ支配が始まってから、莫大な富と権力がアメリカ人の手に渡った」(ガバン・マコーマック・オーストラリア国立大教授『侵略の舞台裏 朝鮮戦争の真実』影書房)

朝鮮分断は米国が主導したものであるとの見立てが正鵠を射ていることが分かる。朝鮮半島の最大の問題、悲劇は、朝鮮が他国の力によって南北に分断され続けてきたという点にある。南北の融和、南北の統一こそ、目指すべき目標である。

その南北の分断、韓国に対する支配を確保し、手放さずに来たのが米国なのである。米国の韓国支配は韓国のためのものではなく、米国のためのものである。その米国の支配下にある日本は、日本や韓国のための外交ではなく、米国の利益を守るための外交を展開していると言わざるを得ない。

安倍首相は平昌五輪開会式への出席を見送ろうとした。しかし、自民党内からの異論を受けて開会式出席を受け入れた。そして、韓国の文在寅大統領との会談で五輪後の米韓軍事演習を督促する発言を示し、文在寅大統領から内政干渉であるとの批判を受けた。

今回、南北朝鮮の首脳会談が実現したが、会談実現は文在寅大統領の指導力によるところが大きい。文在寅大統領は米国のトランプ大統領にも積極的な働きかけを行い、その結果として米朝首脳会談が実現する流れが生み出された。

こうした「対話」を軸とする朝鮮問題の解決については、中国、ロシア首脳も歓迎の意向を明示し、ただ一人、安倍首相だけが「圧力一点張りの主張」を続けてきたために蚊帳の外に置かれる事態が生じている。

安倍首相は訪米してトランプ大統領と首脳会談を行ったと弁明するが、トランプ大統領の対日外交のスタンスは、基本的に隷属国に対するものである。

トランプ大統領が昨年11月に訪日した際、入国の戸口になったのは横田基地である。トランプ氏は訪日後の最初の演説を、星条旗を背景に行った。日本に対して独立国訪問の儀礼を踏まずに訪日し、そのまま横田基地から日本を離れたのである。

安倍首相はトランプ大統領のマイアミの別荘を二度訪問しているが、安倍首相を招いての夕食の会場は、二度ともファミレスのような食堂である。安倍首相はゴルフをプレーしていることを宣伝するが、外交においては、どのクラスの接遇を受けるのかが極めて重要なのである。

トランプ大統領は安倍首相と親しく接してはいるが、独立国家の首相として対応しているというよりも、隷属国の総督と対応していることを「形式」によって明示していると見られる。4月24日に訪米したフランスのマクロン大統領は、トランプ大統領就任後、米国が招く初めての国賓となった。

習近平氏夫妻が訪米した際には、安倍首相と同じマイアミの別荘を訪問しているが、夕食は格式の高い晩餐会会場であった。つまり、日本は完全に格下の扱いを受けているのである。南北朝鮮の問題についても、両国は南北朝鮮と米国、そして中国と協議して今後の対応を進めることを明言した。

安倍外交の孤立無援ぶりが改めて明らかになったと言わざるを得ない。拉致問題を抱えている日本であればこそ、関係各国から重視される発言力を確保しなければならないのだが、安倍外交にはその力が完全に欠落していると言わざるを得ない。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。