<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産⑳「コントはこうやって思いつく」
高橋秀樹[放送作家]
***
僕が大将(萩本欽一)に聞く。
「30年位前ですけど、大将に、すごく素人みたいな質問ですけど、コントはどうやって思いつくんですかって聞いたことがあります」
「俺、なんて答えた?」
「額の前の中空に、茶色い光が浮かんで、それが天目のところにスーって入ってきて、その時にもうコントはできてるっておっしゃいました」
「ああ、そういう質問するのは、お前が俺のことに別に興味がなかったからじゃないの」
「そんなことありません。大将はあこがれの人でしたから」
「じゃあ、俺が、お前のことをあまり信用してなかったからだな」
「はあ」
「コントの作り方なんてそんな大事なことを、誰が教えるか」
「はい」
「欽ちゃんは、茶色い光が浮かんで、それで、コントが思い浮かぶらしい。でも、自分でやってみたらコントなんか、ちっとも思い浮かばなかった、って話にして、お前いろんな人に喋っただろう」
恐ろしい、図星である。何の役にもたたない。あまりおもしろくもないエピソードにしか聞こえなかっただろうと今になって思う。
「なんか場所の設定、言ってごらん」
「病院です」
「病院かあ。じゃそこで起こる設定をどんどん考えてゆく。医者、えばってる、患者注射が嫌、待合室のおばあさん。自分の知識の中から、浮かぶだけ浮かばせて、浮かんだものを全部捨てる。それから考える、みんなの考えが行かないなあというところまで考える。そしたらなにが見えてくるか、診察室の窓がちょっとだけ開いていて、カーテンが揺れている。お医者が注射しようとする、患者が身構える。すると雨が降ってきて、お医者さんが『あ、雨』って。その間に注射は終わってる」
僕「ハイ、もう言わないで下さい」
なんか、これ以上言ってもらうのは、申し訳ない気がしたのだ。言わせてはいけない気がしたのだ。あとは自分で考えよう。
大将はまだ続ける。
「これに、新味を乗っけていかなきゃいけないんだよ」
大将が一息ついてタバコに火をつけたので話題を変える。
僕「育つディレクターってどんな人ですか」
「よく聞いてる人だねえ。聞いてるのずっと。我慢して聞いてるの。いい大学出てテレビ局員になって、この人は知識はいっぱいあるなあって。こっちは、わかってるけど、そういう人は自分の知識を出さないで、聞いている。ああ、聞いてるなあこのディレクターって思ったら、後は任せちゃう、任せちゃう方がいい仕事してくれる、本番で乗っけてくる、俺も仕事が楽しくなる」
「『待てよ』って考えられるのもいいディレクター」
僕は、ディレクターが『待てよ』と思うのはどんな時か自問自答してみる。
うまく行かなかった時、たち止まるのが『待てよ』ではないのか。
「それだけじゃないなあ、『待てよ』は、ひらめき。何の支障もなくうまく行きすぎている時、思い通りのロケ映像が撮れた時、そんな時に『待てよ』がひらめいて、もう一度やれるディレクター。こいつは優れている」
僕は『待てよ』のひらめきが来ないように仕事をこなしている自分に気がついて愕然とする。
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メディアゴン 編集部
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