<明石家さんまの新番組は次回が勝負?>新番組『さんまのお笑い向上委員会』はどこを笑えば良いのか?


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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4月18日土曜日、夜11時からのフジテレビ系新番組『さんまのお笑い向上委員会』を見た。

「さんまさん、どこを笑えばいいんですか?」

それが、30分間、番組を見終わった時の偽らざる筆者の感想であった。

唐突だが、小堺一機さんの話をする。小堺さんは修行時代、勝新太郎さんの演技塾、勝アカデミーに通っていた。勝さんの芝居を見に行き、終演後、楽屋に挨拶に行った。

勝さんは化粧前(鏡)に向かって白粉を落としているから、振り向かない。その勝さんの背中に「小堺です。勉強させていただきました」と声をかけた。「ああ」と勝さんがドスのきいた声で返事する。小堺さんはそれで失礼しようと思っていた。ところが勝さんが背中でこう言った。

「待て、小堺。お前もプロなら、一つや二つ悪いところに気づいただろう。言ってみろ」

筆者は今、そのときの小堺さんと同じ気持ちで本稿を書いている。さんまさんは一つ年下だが、筆者にとっては、さんまさんはある意味で小堺さんの勝さんに対する存在と同じである。

映画「フィールドオブ・ドリームス」のどこで泣いたかを、さんまさんに聞かれ答えると、

「そこは泣く場所が違う」

と30分説教された。もちろん、これは半分シャレだったけれど。

『さんまのお笑い向上委員会』の話に戻る。司会のさんまさんの前にひな壇。ひな壇には前列下手(テレビに向かって左)から今田耕司、太田光(爆笑問題)、堀内健(ネプチューン)、土田晃之、児嶋一哉(アンジャッシュ)。後列には秋山竜次(ロバート)、飯尾和樹・やす(ずん)、澤部佑(ハライチ)。

このメンバーで新人漫才コンビ「流れ星」の笑いのレベルを上げようという企画である。

ひな壇に並んだメンバーは、いつものお笑い芸人にしか見えないと感じる視聴者の人も多いと思うが、このキャスティングは見る人が見ると強烈なメッセージを発している。

まず、豪華である。今このメンバーを揃えるのは、相当なキャスティング力と僥倖がないとできない。

続いて、それぞれの所属事務所である。吉本興業の今田耕司、秋山竜次。個人事務所タイタンの太田光、昔、太田プロダクションから移籍し今はワタナベエンターテインメントの堀内健、澤部佑、太田プロの土田晃之、人力舎の児嶋一哉、そして浅井企画のずんと、新人の流れ星。

ここに、ホリプロ、松竹芸能が揃えば日本の笑いをやるプロダクションが全部揃ったと言うことになる。しかも、各プロダクションは、ローテーションに入るエース級を出してきている。スタッフの意気込みが感じられる。

前の段落でひな壇での並び方を列挙したが、これにも、もちろん意味がある。

さんまさんの最も近くに今田耕司。外さず、的確な答えを返す気心の知れた安全牌。その隣に、一人さんまの笑いの文法に従わない太田光。そして時に大ハズしする暴走キャラの堀内健。抑えの土田晃之は、実はさんまさんが最も信頼しているかもしれない。落ちが振りやすい児嶋一哉。後列一同は場を見て臨機応変にパワーを発揮する役だ。

通常、ひな壇に芸人が揃えられると、芸人がまず考えるのは、どの立ち位置で演じるかを考える。メンバー内での役割である。昔は優れた演出家がどの立ち位置でやるべきかを演出したが、今は芸人任せであり、それは芸人の方が的確にわかっているからである。

「ひな壇出芸人がしゃべっている番組ばかり」という批判があるが、この番組ではわざと飾らず王道のひな壇並びのセットをつくった。あえてそうして、ひな壇トークのスタンダードを創ると言う根性を見せたいのではないか。

で、ここまでわかっていただいたところで、番組の内容である。

結果的にこのメンバーとのオープニングトークが長引いて、フロアディレクターから終了の合図が出たため、企画の根本である「流れ星」は待たされただけで、出演チャンスは来なかった。誰かスケジュールが迫っていて終わらざるを得なかった、と考えることも出来る。

それでは、そこまでのトークは面白かったのか。

筆者の考え方では、「オープニングトークが面白すぎたので、本編に入らず番組は数了しました」というのは最高の番組だと判断する。何しろ笑いであろうが何であろうが、テレビはドキュメンタリーを見せるものだからである。

その法則に叶っていたかというと、残念ながら、

「さんまさん、どこを笑えばいいんですか?」

と聞かざるを得ない。ドキュメンタリーで撮っていると逆に仮定すると、30分番組に出来る素材がまだ揃っていない段階で終了してしまった。

太田とホリケンは、暴走するのが仕事だから自由に振る舞う。ホリケンが膝の骨が折れていると振る。さんまさんがその振りをこなそうとしていると、こなす間もなく、太田がホリケンの膝を蹴る。コントにならない。

今田が割ってはいって、立て直そうとするが喋りでそれをやろうとするから動きの速さにはついていかない。さんまさんも立て直そうとして土田に振るが、土田は処理しきれない。しょうがないから、さんまさんは児島に振って、強い落としの言葉でそのシークエンスを終了させようとするが、間も何もなくそれに太田、ホリケンがかぶせる。こうなると後列も自分のネタで前に出るしかなくなる。

ここに居るメンバーは、おそらく「出身の高校で一番面白いと言われたレベルの人たち」である。その彼らが単なるネタの出し合いをしたら、もう、見ている方は何が何だかわからない。

さんまさんは、

「ええねん、今のフジテレビは何やっても、ええんやから」

と言っていたがシャレにならない。何をやっても良いように見せるのがフジテレビのバラエティの上手なところだったのだが、タダ、何をやってもいいのではないことは、さんまさんも充分わかって発言しているのだろう。

こういう番組になったとき、処理の仕方をどうするか。筆者が演出家ならこうする。

もし誰かのスケジュールで、終わらなければいけなかったのなら、終わらせてはいけない。それがさんまさんでも、終わらせてはいけない。誰かが司会役になって、企画でやりたかったところまでやればいい。

なぜ、スタッフが終わらせたのかわからない。3本分ほども長時間VTRが回っていたなら、3本分に編集できるか、あとでゆっくり考えれば良い。

フリートークというのはその座組によって強烈な爆発力を発揮する。その例を筆者は2つ知っている。

45年ほど前、おそらく日本テレビ、番組名は「笑待席」。演者は立川談志さんと前田武彦さん。中学生だったので、判断できないが、おそらく言ってはいけない危ないことばかり言っていたのだろう。突然終了した。

もう一つは「笑っていいとも」さんまさんとタモリさんの丁々発止。タダしゃべるだけ。一度このコーナーに視聴者のはがきを入れようとしていたが、その回は、うって変わってつまらなかった。演者への信頼感とかそういうものだろう。

『さんまのお笑い向上委員会』は、次回が勝負である。

 

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