<白鵬はまた取材拒否>成長続ける新大関・照ノ富士の名古屋場所に注目


北出幸一[相撲記者・元NHK宇都宮放送局長]

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照ノ富士、白鵬ともに黒星発進。

照ノ富士は春場所白鵬に土をつけて千秋楽まで優勝争いに踏みとどまる活躍で、夏場所が始まる前には成績次第で大関と言われて注目が集まっていた。夏場所初日、その照ノ富士は強引な取り口で墓穴を掘って佐田の海に寄り切られた。一方、白鵬は逸ノ城に立ち合い一瞬の突き落としで敗れた。照ノ富士、白鵬ともに黒星発進で“荒れる春場所”ならぬ“荒れる夏場所”の予感がした。

一度は消えかかった夢

照ノ富士は2日目から持ち直して7連勝した。9日目勝ち越しがかかった一番で徳勝龍に左上手を取れずに一気に寄られて力なく土俵を割って、初日に続いて平幕に星を落とす手痛い2敗目となった。支度部屋では「横綱、大関に負けたわけではない」と言ったが、くやしさはありありと表情に出ていた。

11日目、白鵬、照ノ富士が直接対決した。春場所で白鵬に張り手を見舞って勝利していた照ノ富士。今回は白鵬がお返しをした。立ち合い左の張り手から上手を取って攻め続けて最後は上手出し投げで圧倒した。支度部屋に戻った照ノ富士は「もう無理。負けて当たり前だからくやしさもない」と意気消沈していた。

白鵬は「立ち合い、いいところが取れた。それがすべて」とご機嫌だった。場所前には「白鵬に勝って13勝以上」が一つの目安とされていたが、これで照ノ富士の優勝も大関昇進もなくなったと思われた。

白鵬2敗目に不満の様子で取材も拒否

ところが12日目、白鵬が大関豪栄道の捨て身の首投げに屈して2敗目を喫した。座布団が舞い飛ぶなか白鵬は豪栄道にあわせて礼をすることなく、土俵上で立ち尽くした。さらに負け残りでもなかなか座らなかった。白鵬の師匠の宮城野親方(元幕内竹葉山)は「物言いをつけて欲しかったのだろう」と白鵬の心境を思いやった。

NHKの大相撲中継の解説をしていた北の富士さん(元横綱)は「物言いがついても確認程度。子どもでもわかる相撲」と言って、初場所後の優勝翌朝の記者会見で白鵬が審判を批判した同じ言葉を使って白鵬のこの行動を皮肉った。白鵬は15日間取材を拒否した春場所と同じように、この日から報道陣に背を向けてまげを直すようになり、一切の質問に答えず取材を拒否した。

 白鵬の3敗で昇進のハードルが下がった

白鵬はさらに14日目に大関稀勢の里に敗れて3敗目となり照ノ富士と並んだ。白鵬が3敗となったことで夏場所の優勝争いは混迷の度合いを増していった。14日目を終えて11勝3敗で白鵬と照ノ富士の2人が並び、10勝4敗には日馬富士、稀勢の里、高安、勢、魁聖、嘉風の6人が続く大混戦。白鵬と照ノ富士がともに勝てば優勝決定戦、どちらかが勝ち、どちらかが負ければ勝った力士の優勝、ともに負ければ、11勝に踏みとどまった力士も加わる優勝決定戦となる。

14日目を終え1差に8人がひしめくのは43年ぶり。夏場所は白鵬の取りこぼしによってまさに“荒れる夏場所”になった。それに伴って一度は消えた照ノ富士の優勝と大関昇進のハードルが低くなった。井筒審判部副部長(元関脇逆鉾)は「12勝で優勝なら大関は近づく」と評価し、「白鵬に勝たなければ」と言っていた北の湖理事長(元横綱)も12勝で優勝ならば大関昇進の可能性があるという見解を示した。

日馬富士の勝利で夢が実現した千秋楽

千秋楽、幕内の取組が進んで4敗の高安、勢、魁聖、嘉風が次々に敗れて優勝争いから姿を消していった。そして照ノ富士が師匠の伊勢ケ濱親方(元横綱旭富士)から素晴らしい相撲とほめられた立ち合いからの速攻で碧山を一蹴すると優勝争いは照ノ富士と白鵬の二人に絞られた。照ノ富士が東の支度部屋に戻ってテレビで見守るなか、結びで兄弟子の日馬富士が気迫のこもった相撲で白鵬を寄り倒し、12勝3敗で照ノ富士の初優勝と場所後の大関昇進が確実になった。

照ノ富士は優勝が決まった瞬間、間垣部屋から一緒に移籍して苦楽を共にしてきた付け人の駿馬と抱き合ってよろこんだ。

 “さらに上を目指して精進いたします”

5月27日、大関昇進が決まったことを告げる日本相撲協会の使者が伊勢ケ濱部屋に到着した。伊勢ケ濱親方夫妻とともに使者を迎えた照ノ富士は「謹んでお受けします。今後とも心・技・体の充実に努め、さらに上を目指して精進いたします」と口上を述べた。四字熟語を使ったり、「大関の地位をけがさぬように」など表現はあったが、口上で次の目標をあげてさらに向上してゆくと表明するのは、初めてのケースではないか。

縁起物の鯛を力強く高く持ち上げる照ノ富士の姿を見て、次の口上を聞けるのもそう遠い時期ではないような気がしてきた。記者会見で照ノ富士は「大関の上はひとつしかないので、それを目指してがんばりたい。横綱はなりたくてなれるものではなく、相撲の神様が選ぶもの。自分が選ばれるための努力をしたい」と言い切った。

さらに成長を続ける新大関・照ノ富士の名古屋場所の土俵が大いに注目される。

 

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北出幸一

北出幸一(きたでこういち)相撲記者。 石川県小松市出身。元NHK記者。1980年、NHKに入局し、大相撲、五輪、プロ野球などの取材を担当。大阪局広報部長時代には「てっぱん」「カーネーション」など「NHK連続テレビ小説」のPRを担当。2011年から3年間は宇都宮放送局長を務めた。宇都宮では好球必打、“打つのみや”の精神で、県域テレビ放送開始、開局70周年記念栃木発地域ドラマ「ライド ライド ライド」の制作を指揮した。2014年6月にNHKを定年となり、同年7月より「NHK大相撲ジャーナル」の取材記者。