なぜ『テレビ批評を書くのか』『テレビ批評は何に役立つのか』


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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メディアゴン(http://mediagong.jp)」でテレビ批評を書き始めて2年あまり、たくさんのご批判、ご叱責、ご賛同、人格攻撃に類するもの、多種多様なご意見を頂きました。

ネット上で成されたモノや、公共放送上で成されたそれらは、すべてではなくても大まかに確認できますので、目を通して、筆者が納得できるモノは、テレビ批評を書くときの心の糧にしています。

最近は筆者に直接意見をおっしゃって下さる方も増えて、これは、面と向かって言って下さる分、考えて下さっているという気遣いを感じて、謙虚に伺うように努めています。ありがとうございます。

筆者がテレビ批評をナゼ書こうと思ったのか。それはナンシー関さんの影響です。ナンシーさんは後にも先にも誰ひとり乗り越えられていないテレビ批評の最高峰だと筆者は思います。ナンシーさんの連載は片言隻句含めてすべてを読んでいますが、まず感じるのは「テレビが大好きだ」と言うことです。

原稿を見て分かるのはその視聴量も、膨大さです。起きている間はずっと、消しゴム版画を彫りながらテレビの前に陣取って動かなかったのではないか、とさえ思います。

週刊朝日のナンシーさん担当の編集者と会食したとき、編集者は「ナンシーさんに健康管理担当の専任編集者をつけておかなかったのはこちらのミスだった」と、筆者に話してくれました。

ナンシーさんのテレビ批評にはぐさっと刺す毒針がちりばめられています。筆者も自分がつくっている番組の欠点について、図星を突かれて、一瞬頭の中が白くなって、そのあとは笑うしかなかったということが何度もありました。こうした図星は最大限、番組を良くする方向に活用させて頂いたと思っています。

『ナンシーは分かっている、見抜かれている』ダウンタウンの松本人志さんが、唯一認めているテレビ批評だと聞いたことがあります。是非会ってみたいと言っているようでしたが、対談が実現したかどうかは、知りません。

ナンシーさんは2002年に亡くなりました。以後、テレビはどんどんつまらない方向に進んでいったのではないかというのが筆者の見立てです。2002年と言えば、筆者はその当時まだ47歳で、数多くのテレビ番組を作っていましたから、筆者にも、その責任があります。

ナンシーさんに批評眼がテレビ全体を面白くしているのではないか。筆者もナンシーさんに及ぶべくもないが何かしらの批評を書いてみたいという思いが強くなったのが50歳の頃です。

今、思い出しましたが、筆者は45歳の頃に中学受験の本を3冊上梓しています。その頃、編集者に「テレビ評を書きませんか」と言われたのです。その時は即座に「出来ません」とお断りしました。

なぜなら、筆者はテレビの内側で仕事をしている放送作家だからです。頭の中をたちどころに駆け巡ったのは、

「僕はテレビ局から原稿料をもらって飯を食っている、テレビ評は褒めるばかりとはいかないだろう。テレビ番組を貶すような後ろ足で砂を掛けるようなテレビ評を書いたら、直ぐ皆に嫌われて、仕事を干されて、おマンマの食い上げになってしまうだろう」

と言う思いでした。その時はやらなかったので仕事を干されたかどうかは分かりません。でも、次第にテレビ評が書きたいという思いが強くなっていきました。「小説の形にすれば・・・」「ペンネームを使えば・・・」いろいろな姑息な手段が頭を駆け巡りましたが、書くなら本名で堂々と、と決めました。

書く場所を得るために動き回りました。企画書を作って、講談社、文藝春秋、小学館、朝日新聞、日経新聞を回りました。伝手をたどって、ようやく会って下さった編集者は皆興味を示してくれましたが、書き手の僕に信用がなかったのでしょう。

さらに企画書のタイトルが『自分のテレビはさておいて』だったのもいけなかったと思います。何とも覚悟の決まっていない軟弱なタイトルです。結局短い文章を2回掲載してもらえただけました。

その時、持っていった企画書には現在のメディアゴンのコンセプトとして掲げている「メディアゴン宣言http://mediagong.jp/?page_id=178)」と、ほぼ同様のことが書かれていました。

これを読み返すと何と生硬で肩に力の入った文章かと、あきれてしまいます。しかし、メディアゴンをやっている理由は分かって頂けると思います。

こうして筆者は、ネット上にテレビ評を書く道を選びました。メディアゴンはWeb雑誌という位置づけです。少ないですが3人の編集部もあります。

ネットなら個人のブログや、Facebookに書く方法もありますが、これでは多くの人に読んでもらえません。Web雑誌としての地道な運営を経て、今日では Yahoo!ニュース他、Infoseek/楽天ニュース、ブロゴス、exciteニュース、マイナビニュースなどにも配信しており、まがりなりにもメディアとしての体裁を持てるようになっています。

Webメディアとしては、当然のことながら多様な意見が必要です。メディアゴンの運営方針は「少数意見でも真摯な考えの原稿は掲載する」です。著名人が執筆陣に多く含まれていることがメディアゴンの特徴でもありますが、一方で、はっきりとしたオピニオンを持っていれば思想や分野を超えて、有名無名を問わず、幅広く執筆をしていただいています。

冒頭に「寄せられるご批判、ご叱責、ご賛同、ご意見」と書きましたが、これについて述べます。なお、以下は筆者・高橋秀樹の書くテレビ批評に関してのものだと、お断りしておきます。筆者の記事に対してまれに、

「偉そうだ」

という意見があります。これは『お前ごときが偉そうに書くな』と言う意味だと思います。今この文章は「ですます」で書いていますが普段は「だ、である」です。芸能人の名前は記号だと思っているので原則は敬称略です。

個人的に知っている芸能人もいますが、客観性を持たせるために気持ちが許せば基本的に敬称略にします。でもおそらくこういう文章表現上のことは、些細なことでしょう。

批評を書くこと自体が、しかも、ダメだと思っている点を指摘することが「偉そうだ」なのです。どうすれば「偉そうだ」と言われないか考えてみます。

「上から目線だ」

という指摘もあります。「偉そうだ」と言う指摘と似ているようで違います。上とか下とか感じるのは「全員が平等であるはずだ」という悪しき平等主義があるからです。僕は何も自分が上だとは思っていませんが、この「上から目線だ」は人を批判するときの流行語のようなものだと思います。てなことを書くと、きっと、「上から目線だ」と言われるのでしょうね。

「指摘が的外れだ」

本当に的外れかどうか、どこがどう的外れなのか指摘して頂きたいと思います。筆者は良く「番組に志がない」と書くことがありますが、すると、番組の志は「こうこうこういうことで」と説明して下さる方がいます。でも、番組はテレビの画面から出てきたものがすべてです。見て志が感じられなければ、志がないのと同じです。

「批判するな」

テレビ番組として、作品として外に出した以上、それは、批評の対象です。筆者なら甘んじて受けます。

「自分に跳ね返ってくるよ」

これはその通りだと思います。やはり、広く流通するコンテンツですから、心して書いております。もちろん、これは筆者に限ったことではないでしょう。すべての執筆者がかなりナイーブに記事を書き、読者からにリアクションに一喜一憂しています。

もちろん、筆者の指摘や意見に対して、

「そんなこと分かっている」

というような批判もありません。あるいは、テレビ批評でれば、それに対して、

「自分で作れ」

といった、辛辣なものもあります。もちろん、チャンスがあれば、どんな番組でも作りたいですし、その批評や批判も読んでみたいものです。一方で、こんな批判を見たこともあります。

「(テレビは)タダで見せてやっているのに」

いえいえ、これは誤解でしょう。テレビの視聴はタダではありません、視聴者もテレビ制作者も筆者もスポンサーの品物やサービスを買うことで割り勘で薄く料金を払っています。スポンサーはそこからテレビ局に広告料を払っています。あまりにも薄いので払っていることが見えなくなっている巧妙なビジネスモデルである。ということです。

そして、筆者の放送作家としての職業を指して、

「お前も中の人間だろ」

・・・などという批判もあります。これは「中の人間が批判できるか、同罪だ」という意味と、「テレビで食わせてもらっているもに、批判的なことを書くな」という2つの指摘があるでしょう。

確かに今のところ、筆者は職業的に「中の人間」ですが、しかし、学生の映画製作同好会に所属して仲良しクラブの中にいるわけではありません。シビアな大人の世界、ビジネスの世界にいます。中の人間だからこそ言えること、書くべきことがあるはずです。「中の人間は批評してはいけない」とは思えません。

筆者は後輩の放送作家には、「どんなときでもシャレっぽくあれ」と言い続けてきました。「シャレっぽい」がどうかは、笑いに関係している人間にとって、一番重要な判断基準です。しかし、そんな持論を持つ筆者ではありますが、事務所の後輩から、

「シャレっぽくない」

と意見されたことがあります。これにはハッとして激しく落ち込んでしまいました。。シャレっぽく書けるように研鑽を積むしかありません。

しかし、「シャレっぽい」は、それこそ中の人間だけのルールで、「空気読め」とおなじことであり。外のふつうの世界の人が守らなければならないルールではないと言うことを書き添えておきます。テレビを見ている若い人が皆芸人の真似をして、「ボケ」とか「ツッコミ」とか「いじる」とか「おいしい」とか「目線」とか言っている風潮はあまりよいモノではありません。

それでも、

「(何であれ、違法でなければ)書くのは自由だ」

という声が少なからずあることも事実です。書き手として、これには感謝です。ともあれ、筆者は面白い番組が見たい一心でテレビ批評を書き続けます。

 

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メディアゴン 編集部

メディアゴン編集部(めでぃあごんへんしゅうぶ)2014年5月末日、東京生まれ。メディア批評・メディア評論に特化したメディア専門家によるメディアニュースサイト。キー局プロデューサー、ディレクター、イベントプロデューサー、放送作家、大学教授、評論家、ゲーム作家、弁護士・・・などなど、メディアの第一線で活躍する人材が活動中。