<展覧会は6時間待ちも>伊藤若冲『動植綵絵』が人気[茂木健一郎]
茂木健一郎[脳科学者]
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伊藤若冲の『動植綵絵』の人気が大変なことになっていて、展覧会は6時間待ちとかにもなっているらしい。
私は相国寺、それにワシントンでじっくりと拝見する機会があって、今回はご遠慮申し上げたが、確かに歴史的傑作だと思う。
『動植綵絵』は、生きとし生けるものに対する祈りである。さまざまな愛らしい生きものたちが描かれているが、それと同時に釈迦三尊像があるのはその意味である。
人間だけでなく、この世の生きものすべてに、愛の眼差しが向けられているのだ。
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『動植綵絵』は、よく見ると、たとえば、葉っぱに虫食いがあったりして、生きものたちが、お互いに食べ合う、というありさまを含めて、生きとし生けるものすべてのありかたに、平等に光を当てていることがわかる。
「秋塘群雀図」では、雀たちのうち、一羽だけが白く、そこに、自分が自分であることの切なさ、意識のふしぎさを私は感じてしまう。
生涯を代表するような作品を、magnum opusと言う。『動植綵絵』は、伊藤若冲のmagnum opusである。もし、『動植綵絵』がなかったら、伊藤若冲は素晴らしい技術の奇想の画家ではあったろうが、今の若冲ではなかったろう。
六本木の森美術館に伊藤若冲の『鳥獣草木図屏風』が展示されていた時、何もしらないで見に来た茶髪の若ものたちが感動して絵の前から動けなくなってしまったと聞く。また、九州に巡回した時は、漁師さんたちがお礼に、と所有者のプライスさんに魚を持ってきたという。
伊藤若冲は僧籍のひとだったが、その絵が現代の私たちを動かすのは、そこに込められた祈り、思いの強さゆえだと思う。
世界の絵画史の中に位置づけられる、すばらしい画家である。
(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)
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