<「諸事情により…」で反省>高橋維新、初テレビ出演で芸能人のスゴさを思い知る

テレビ

高橋維新[弁護士/コラムニスト]

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筆者・高橋維新は先日、テレビに出ました。

2017年1月3日に放映された日本テレビ『諸事情により・・・』という特番です。お話をもらったのは、去年の11月頃だったでしょうか。女性AP(アシスタント・プロデューサー)さんから、私の勤務する法律事務所に直接電話をいただきました。

『諸事情により・・・』は、様々な業界の裏事情を暴く不定期の特番です。今回は4回目の放映になりますが、「文化人タレントの諸事情」「芸能界の裏方の諸事情」「ミュージシャン活動休止の諸事情」など様々なテーマを扱う中で、最後のテーマが「ネットニュースの諸事情」でした。

そこで、今「ネットを賑わせている」ライターのひとりとして筆者にスタジオゲストとして登場してほしいということでした。収録は金曜日の夜10時からでしたが、幸いなことにその日の午後は休みを取れることになりました。函館から東京まで移動して、出ることにしてみました。

「ここでカマせば次がある」

「結果を残せば業界の人の印象に残れる」

顔を売るチャンスです。筆者の胸は否応なく高鳴りました。皮算用ばかりがはかどります。

「一応、東大卒の弁護士って肩書だから、Qさまやネプリーグのオファーが来るかもなあ。別にそんなに出たくないなあ・・・」

それに先立ち、函館にディレクターさんが一人お越しになって、当日の打ち合わせをしました。これは、当日の私のパフォーマンスを量るための面接のようなものだと思いました。そうなると、気は抜けません。ここで無難な対応に終始してつまらない奴だと思われたら、収録やオンエアの時間が削られるかもしれません。話自体がなくなるかもしれません。

カメラが回る中で、様々なことを聞かれました。なぜお笑いのことを批評しているのか。きっかけは何か。最近の芸人についてはどう思うか。たけしさん、とんねるず、爆笑問題。

ディレクターさんは、総じて私が辛口の直言をすると笑ってくれていたように思えました。十分な好印象を残せたのではないかと思えました。

この時には、当日の私の役割についてもお話がありました。いつもの辛口批評の感じで、スタジオにいる演者の皆様に毒づいて欲しいということでした。スタジオの面子を見ます。MCがおぎやはぎ小木さん、南海キャンディーズ山里さんに、指原さん。パネラーに決定しているのがオアシズの大久保さんと、ホラン千秋さんと、井上公造さん。パネラーはもう1人ぐらい増えるかもしれないという話でした。

私は少し困りました。私が普段書いているのは基本的にお笑い番組についての記事なので、そもそも「ジャンル」が違う指原さんとホランさんと井上さんに関しては、これまで悪く書いたことが(おそらく)ありません。

芸人である小木さん・山ちゃん・大久保さんに関しても、そこまで悪く言ったことはない記憶があります。それでも、悪口を言うのが当日の私の役割だということだったので、色々と考えておくことにしました。

収録当日、麹町の日テレのスタジオに向かいました。最初に電話をくれた女性のAPさんに、楽屋まで案内されました。楽屋といっても、普段は会議室になっているような部屋を楽屋に転用したような感じで、土足だったし、壁に貼ってあるような鏡もありませんでした。私のイメージしているような楽屋とはだいぶ違いました。

APさんが、弁当を2つ持ってきました。私の入り時間は20時で、収録終了は24時の予定でしたが、なぜか2つ持ってきました。そういうもんなんだろうと思って、オムライス弁当の方を食べました。楽屋でロケ弁を食べるという長年の夢の1つがかないました。

楽屋に置いてあった台本を見ると、パネラーが増えています。博多大吉さんと、菊地亜美さんでした。また悪口を言うのが難しい人たちです。菊地さんはジャンルが違うし、大吉さんはその実力を大いに認めている人です。

悪口を言うことになるので事前に演者の皆様にご挨拶したいとAPさんにお願いしてみましたが、演出的にスタジオで初対面という形にしたいということで、却下されました。

収録開始前にディレクターさんがフリップを持ってきました。これに各演者への悪口をワンフレーズで書いておき、本番で順々に出してほしいということでした。

その場でディレクターさんに見てもらいながら書きました。ひねり出した、悪口です。

大久保さん「あと10年」

多分、大久保さんの強みは下ネタだから、あと10年経ってリアルおばあちゃんになったらイタイだけで笑えなくなるんじゃないかな。

山ちゃん「許容範囲のキモチ悪さ」

キモチ悪いけど、テレビで映せるレベルのキモチ悪さ。

指原さん「キレイすぎない」

キレイすぎないから、手が届く感じがする。照れずに絡める。

ホランさん「違いを作りましょう。」

なんか、たくさんいるハーフタレントと比べると、これといった強みがない気がする。

小木さん「マジボケ」

マジでとぼけている感じが出せる演技力があるのが、いいですよね。

大吉さん「イケメン」

イケメン。

小木さんと大吉さんだけ悪口ですらないですが、最後に出して「なんで大吉さんだけ褒められてるんですか?」みたいな発言をさっしーや山ちゃんから引き出し、オチにしようという意図でした。ディレクターさんのOKももらって、これで行こうということになりました。

ディレクターさんからは、「多分、結構強く反発されるので、そこでプロレス(打ちあわせ済みの喧嘩)をしてください。『は?』とか言われても、TVとして言っているだけなので、あまり気にしないでください」と言われました。TVショウとして喧嘩をすれが、おもしろくなるということでしょう。

あとは、自分の出番が来るまで、基本的に前室で収録の模様を見ていました。前室にも死ぬほど食い物がありましたが、一切手を付ける余裕はありませんでした。

「ネットニュースの諸事情」というコーナーが始まり、前室からセット裏に移動します。音声さんにマイクをつけてもらう中、自分が出ているVTRの音声がスタジオから聞こえてきます。自分の声は、いつ聞いても変だと思います。「カワイイ~」「想像と違う~」「気持ち悪い」好悪、取り混ぜてのガヤがスタジオから聞こえてきます。

VTRが終わると、いよいよさっしーの「高橋維新さんに登場していただきましょう」という一声でスタジオに入ります。

入った瞬間から、大久保さんや菊地さんは私のことを責めてきます。これは、TVショウとしての喧嘩を吹っかけているわけです。事前の打ち合わせでも、おそらく私のことを攻撃してくださいと指示されていたことでしょう。2人の立ち回りは、プロのタレントとして全く正しい態度です。

ただ、正直ここまで強く来ることは予想外でした。

甘いと言われればそれまでですが、2人の強い攻撃に筆者はすっかり怯んでしまいました。筆者は、どうもTVショウのプロレスと受け止めることができず、マジで攻撃されていると感じてしまうようです。こういう人は、全く演者に向いていません。

MCの人から話を振られても、ヒヨヒヨした返答に終始してしまいます。見かねた隣の山ちゃんが、

「維新さん。俺たちタレントで分かってるから、もっとグイグイ来て」

というフォロー(というより、本番中のマジダメ出し)を入れてくれます。想像より全然バトらない人が来たもんだから、このままでは番組側の想定していた画ができないと心配しての発言でしょう。

ただ私は山ちゃんの優しさに感動するばかりで、全く態度を改めることができません。スタジオにも、「あれ? 実物はこんな人なんだ」という空気がだんだんと充満していきます。

そういう変な流れのまま、フリップのシーンに突入します。

山ちゃんのフリで、フリップを出します。まずは、大久保さんからです。ここは多少は事前に言うことを考えていた場面なので、筆者も何とか持ち直させたいと考えています。筆者の汚い字で書かれたフリップが出ます。

「あと10年」

それを見た大久保さんの第一声は、「意外と持つな」でした。確かに良く考えれば、「あと10年」って全然けなしていません。ただ、リアルタイムの筆者には全く予想外の反応だったわけで、これを機にこの後も全てがグズグズになってしまいました。それを挽回する瞬発力なんか当然テレビ初出演の筆者にはないわけです。

他の人のフリップも、よく見れば褒めています。

山里さんの「許容範囲のキモチ悪さ」だって指原さんの「キレイすぎない」だって、テレビでの強みを言っています。2人にそのフリップを出しても、「まあそうだよね」という反応しか返ってきません。

だんだんこのフリップにOKを出したディレクターさんに恨み言を言いたくなってきましたが、人のせいにしてはいけません。

なんとかしようと色々とボケてみましたが、なんかスタジオは終始引いていました。私の天然でスタジオが湧いても、気を遣って笑ってくれているだけなんだろうなとしか思えませんでした。弁護士という肩書をこれほど邪魔くさく思ったことはありません。

小木さんにいろいろ話を振ってもかわされるばかりです。山ちゃんと大吉さんが持ち前の優しさで入れてくれるフォローが、身に染みるばかりでした。思えばしょっぱな、さっしーに手を振ってみたボケも不発に終わっていたわけで、ボケはツッコミ役の人から「コイツと絡んでも損するだけだな」と思われたら、手も足も出なくなるのです。

結局何もできないまま、スタジオを後にすることになりました。

帰った後はフワフワした気持ちのまま前室で収録が終わるのを見ていましたが、スタジオから退去するタイミングで耳に入ってきた大吉さんの「あの人がもう一度呼ばれたら奇跡ですよね」というシメの発言が一番刺さりました。「強烈なダメ出し」です。芯を喰っています。ブラック大吉の面目躍如といったところでしょう。

帰り際にAPさんとディレクターさんにフォローを入れられましたが、多分全然想定した画ができていなかったからでしょう。逃げるように日テレを後にしましたが、全然寝付けませんでした。ちょっとはできるだろうと思っていた自分が非常に恥ずかしかったです。

きちんと与えられた役割を演じられる演者の皆様のパワーは、すごいと思いました。流石みんな、テレビの仕事がたくさんある人たちでした。私には、できません。

もう謝ることしかできません。すみませんでした。

最後に、初めてのテレビ出演を通じて、以下に「反省と展望」を述べたいと思います。

とりあえず、函館で行われたインタビューについても、カメラが回っている以上私には演者としての動きが求められるので、フルテンションでもっとグイグイといって良かったのだろうと今となっては反省しています。

オンエアを確認したら、初っ端で指原さんに「さっしー」と手を振るボケとか、ガッツ石松やピストン堀口のくだりとか、大久保さんへの「あと10年もしたらリアルおばあちゃん」発言とか、山ちゃんへの「言動も気持ち悪かったら留置所で会ってたかも知れない」発言とかいった、筆者が事前に考えて放り込んだ人工ボケはだいたい使われていました。

これらのボケは、ぶっこんだ瞬間にはスタジオが静まり返るのですが、結局使われていたのです。

ただ、スタジオがウケていないとどんどん不安になるので、収録に臨んでいるスタッフの皆様は使えそうなシーンが来たら無理にでも笑って欲しいです。そういうホステス的な立ち回りも、立派な裏方の仕事だと思います。

筆者のボケがスタジオでウケなかったのは、筆者の顔とキャラクターが知られていないからという側面も多分にあります。演者もスタッフも基本的に「辛口批評をしている東大卒の弁護士」という前情報ぐらいしか持っていないでしょうから、そんな「お堅い」人が唐突にボケだしても引いてしまうだけでしょう。

筆者のボケがウケるようになるには、時間をかけて筆者のボケとボケキャラをお茶の間に浸透させる必要があります。それを成し遂げるには、ウケない不遇の時間もずっとボケ続ける必要があるわけですが、これは産みの苦しみのようなものなので、堪えなければなりません。

山ちゃんと大吉先生には、筆者のウケないボケに対する優しさと愛のあるツッコミ(フォロー)で終始助けていただきました。大変に感謝しておりますが、それがツッコミ芸人の本業だとも思うので、感謝しすぎるのも違うと思います。こういうことを言うから嫌われるとは思うので、ちゃんと感謝しておきます。ありがとうございました。他の演者とスタッフの皆様もありがとうございました。

 

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