天皇陛下「退位」を「政争の具」にする安倍首相 – 植草一秀

政治経済

植草一秀[経済評論家]

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安倍首相が年頭会見で、天皇譲位をめぐる国会での議論について、

「決して政争の具にしてはならない。政治家はその良識を発揮しなければならない。」

と述べたが、年初からの傍若無人の言動に辟易する。

日本国憲法は第1章を天皇とし、天皇に関する条文を置いている。

第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
第五条 皇室典範 の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。

天皇が退位について発言し、この発言に従って、退位の制度についての論議が行われている。

そもそも、退位についての発言が、「内閣の助言と承認」によって行われたものであるのかどうかが問われなければならない。天皇は内閣の助言と承認なしに国事に関するすべての行為を行えないことが憲法に定められているからである。

また、皇位の継承については、憲法第2条に明記されており、皇室典範の定めによって行われることが明記されている。

集団的自衛権行使の問題で「立憲主義」が論議された。日本は立憲主義国家であり、政治権力は憲法に従わなければならない。政治権力が憲法を無視することは許されないのである。

政府は憲法第9条の解釈を定め、これを公表してきた。そのなかで、集団的自衛権の行使は憲法解釈上許されないとの見解を明示してきた。

ところが、安倍政権は集団的自衛権行使を容認した。定着している憲法解釈を勝手に変えた。憲法破壊行為そのものである。天皇の譲位を定めるのであれば、憲法の規定に従い、皇室典範を改正する以外に道はない。

天皇の譲位に関する発言が憲法に違反するのかどうかの議論は横に置くとして、憲法を尊重する以上、これ以外に結論はない。

安倍政権は天皇譲位問題に関する有識者会議を設置し、有識者会議は憲法や皇室問題の専門家からヒアリングを行った。有識者会議やヒアリングでさまざまな意見が提示されたが、これらの議論とはほぼ関係なく、有識者会議の座長代理である御厨貴氏が中心になって、安倍政権が目指す特例法制定を行うことが提言される可能性が高い。

憲法破壊を厭わぬ安倍政権であれば、憲法を無視した法整備など朝飯前なのかも知れない。しかし、国会が安倍政権の傍若無人の振る舞いをそのまま容認するとは考えられない。

日本国憲法に、皇位継承は、

「国会の議決した皇室典範の定めるところによる」

との明文の規定がある以上、皇位継承の制度を変更するには、皇室典範の改正が必要になることは当然のことだ。

国会でこのような議論を提示することを安倍首相が、「政争の具にする」と言うなら見識が疑われるのは安倍首相である。

憲法を尊重し、擁護するのは公務員の責務である。日本国憲法第99条にどのような定めがあるのかさえ、安倍首相は恐らく知らないのだと思われる。

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

天皇の譲位に関する発言は、「国事に関するすべての行為」に含まれるものであるから、その発言自体が、「内閣の助言と承認」によるものでなければ、憲法違反となる。そして、その発言の責任は「内閣が負う」とされているのであり、すべての議論の前に、この点の確認が必要になる。

誰も皇位継承問題を「政争の具」にしようととは考えていないだろう。安倍政権が「政争の具」にしたくないというなら、憲法の規定に沿う対応を示すべきだ。また、有識者会議に野党の主張を取り入れる体制を採るべきだろう。

このような筋の通った対応を示しつつ、「政争の具にしてはならない」と発言するなら、異論を差し挟む必要もなくなる。しかし、安倍首相の言動は、自らが正道、常道を踏み外した傍若無人の振る舞いをしながら、その誤りを指摘する者に対して「政争の具にするな」と唱えるもので、誠に大人げないものと言わざるを得ない。

2012年12月に始動した新政権も5年目を迎えようというのであるから、少しは威風堂々とした姿勢を示すべきである。

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