<官僚暗黒時代?>「記憶の限り」は官僚の悲鳴と谷査恵子さんの命を案ずる声

政治経済

両角敏明[元テレビプロデューサー]

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目まぐるしく状況が変化しています。この原稿は4月12日昼に書いていることをご理解下さい。
財務官僚とは日本を支える極めて優秀で誇り高い人たちであったはずです。その超エリート集団から見れば、あまりにちっぽけな大阪の学校法人森友学園に対して、なぜか『応援している』と明言しつつ奇跡の特例処理を続けました。
ゴミ処理問題を巡って籠池夫妻が財務本省へ乗り込むと、ふつうなら会うはずもない田村国有財産審理室長(当時)が自ら「今日はわざわざおこしいただきまして・・・」と丁重に迎え、延々と続く籠池夫妻の饒舌にも耐えて善処を約束します。
その結果、実現された善処とは、あるはずのないゴミをあることにして、その処理責任を国が負うことで8億円余の値引きを実現するという、誇り高き財務官僚がなぜそこまでやるのか考えられない非常識な無理筋通しでした。無理が祟って1年後に問題が露見すると、決裁文書改ざんという信じられない悪手にまで手を染め、あまりのことに耐えかねたお気の毒な自殺者を出してしまいます。

そればかりか、なりふり構わず、数千台のトラックでゴミ処理したという嘘をそそのかしたり、ありもしないゴミ撤去費用に関する学園側の文書を財務省が作り、これに学園側に署名を求めるなどという、無意味で低劣な行為にまで及んでいます。
なぜそこまで・・・。まるで高貴な淑女が自暴自棄になってみずから苦界に身を沈めたかのようです。
小学生でも分かるようないい加減なデータを首相に出した厚労省、教育への不当介入と言われることを承知で右傾議員に言われるまま教育委員会へ質問状を送った文科省、無かったはずの日報がザクザク出てくる防衛省など、かつてあり得なかったような官僚の振るまいが大きな問題となっています。安倍政権をはじめとする一部の方々は「昨今の官僚は劣化している」ともっぱら官僚に責任があると指摘しています。
しかし、ここ数年で官僚の質が急に落ちるはずもなく、すべてが安倍政権に都合が良かれという方向での無理無謀な行為が問題として露見しているわけですから、要因の幾分かが安倍政権の体質にあることは間違いないのではないでしょうか。
犯罪の多くが個人の資質に帰するのではなく社会のありように帰することが常識であるごとく、官僚たちの一斉堕落は彼らを包む環境に原因があると考えるのが常識でしょう。
やるべきでないことは百も承知、やりたくなくてもやらざるを得ない、それが時として犯罪だったり、社会的制裁を受けるに違いないことであっても手を染めざるをえないところへ追いつめられた官僚のみなさんは今「官僚暗黒時代」を生きているのではないでしょうか。
この時代を世間は「安倍一強時代」と言うようです。おそらくいま「官僚暗黒時代」に厳しく追いつめられている官僚が二人います。首相秘書官だった柳瀬唯夫氏と首相夫人付きだった谷査恵子さんです。
『記憶によれば、お目にかかっていない』と頑張り続ける柳瀬氏ですが、愛媛県職員の備忘録ばかりか、今治市役所職員の出張報告書があり、国からの問合せにも今治市役所はその日に「行っている」と答えたことが国会で明らかになっています。
面談内容はともかく会った事実まで否定するのは無理な話です。あの田崎史郎さんですら「僕ですら・・・」とおっしゃっています。それでも言い続けざるを得ないのは、事務方の首相秘書官が会ったとなれば直接の上司である安倍首相の関与が強く疑われ、場合によっては政権の致命傷になりかねないからでしょう。
【参考】<佐川氏証人喚問>前線陥落で敗走に次ぐ敗走迫られる安倍官邸 -植草一秀
無理を承知で、無理を言い続けねばならない柳瀬氏の「記憶の限り・・・」の連発は追いつめられた官僚の「悲鳴」のようにも聞こえます。安倍首相の秘書官だったのが柳瀬氏なら、安倍首相昭恵夫人の秘書役、夫人付きだったのが谷査恵子さんです。昭恵夫人の直接的な関与を疑われているのがいわゆる「問合せFAX」問題です。
籠池氏が昭恵夫人に電話で依頼し、それを谷さんが財務省などに問い合わせてFAX返信した話です。安倍首相サイドは、昭恵夫人は籠池氏からの電話に〝直接は〟答えておらず、昭恵夫人からの指示はなかったものの、谷さん個人の籠池氏への「丁寧な対応」で財務省に問合せ、結果をFAX返信したとしています。
どう考えてもこちらも無理な話です。なぜか谷さんは在イタリア大使館へ異動になっています。まるで口止めされているかのようです。事実は谷さんが知っています。谷さんは昭恵夫人が100万円を寄付した場面にも立ち会っています。証人喚問で谷さんが事実を話せば昭恵夫人に関する疑問点はすべて一発で真実が明らかになります。おそらくは、安倍夫妻にとっての「不都合な真実」を知ってしまった谷査恵子さんもお気の毒ながら、とてつもなくつらい立場に追いつめられているのだと思います。
先日、あるシンポジウムで、観客席にいた全経済産業労働組合副委員長の飯塚盛康氏が挙手して発言を求めました。
飯塚氏は、ノンキャリアである谷査恵子氏が個人の意志で直接財務省の室長に電話で問い合わせるなどということは絶対になく、なんらかの指示があったはずとした上で、谷査恵子さんを証人喚問することは絶対にやめて欲しいと訴えました。谷さんを証人喚問へ追いつめれば命の危険があると衝撃的な発言をされ、後輩の身を案じました。柳瀬氏も、谷さんも、そのほかの追いつめられている官僚のみなさんも、官僚だけに責任を押しつけるのが社会大半の意志ではないことを冷静に受けとめるべきです。
よもや、飯塚氏が心配されるような、命がけのシーンだけは避けていただきたいと願います。すこしだけ冷静になれば、命をかける価値があるほどの上司など存在しないことを思い返すはずです。責任を取るべきは、負け戦になると部下をおっぽり出して逃げ出した上官のごとく、官僚暗黒時代を産み出したくせに、今も責任を官僚に落とし込むことで、自分の責任から逃れようとする人たちの方です。
もし、『事態を深刻に受けとめ、事実を究明し、再発防止に努めるのが私の責任』と言う方がいたら、おそらくそれが責任を取って即刻辞任すべき方です。
 

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