関電不正金品受領事件責任を人権団体になすりつけるな -植草一秀
植草一秀[経済評論家]
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関電幹部が福井県高浜町元助役から高額の金品を受領していた問題に関して、元助役の森山栄治氏がかつて部落解放同盟福井県連書記長を務めていたことが取りざたされている。森山氏は1970年から2年間、部落解放同盟福井県連の書記長を務めていた。
この件に関して部落解放同盟中央本部がコメントを発表している。解放同盟の福井県唯一の支部が高浜支部で1970年に県連とともに設立された。高浜支部が福井県連の唯一の支部であり、その所帯数も80世帯ほどの被差別部落であり、同盟員数に至っても200名ほどの小さい県連のひとつであるとのことだ。
森山氏は1972年に書記長を退任し、解放同盟を離れ、同盟の影響力がまったくない状況時に助役に上り詰め、高浜町全体に影響力を持つに至ったとのことだ。解放同盟は「一連の事件の本質が同和問題ではなく、原発3号機、4号機の誘致、建設にあるということがここからでも理解できよう」としている。
ネット上の論調では、一部発言者が、森山氏がかつて部落解放同盟の役職に就いていたことがあることから、問題の図式が変わったとの論評を提示しているが、こうした発言自体が差別意識に基づくものである。
関電の報告書は、森山氏が恫喝を繰り返し、関電側が被害者であったかのような記述であふれている。しかし、森山氏が不当な恫喝を繰り返したのであれば、関西電力は企業として毅然とした対応を取るべきであった。取締役会で対応を協議し、森山氏に法に触れるような対応があったのなら、法的対応を取るべきであったはずだ。
そのような対応は不可能でない。毅然とした対応を示すことが企業の社会的責任でもある。ところが、関電はこうした対応を示していない。関電幹部は高額の金品を受領したままだった。1着50万円もするスーツを贈呈され、実際にスーツを着用していたのではないのか。
提供された金品を返却するために「一時的に保管していた」との弁明が通用する余地はない。関電内部の調査報告書には次の記述がある。森山氏が示した「恫喝」のひとつとして紹介されている事例だが、「発電所立地当時の書類は、いまでも自宅に残っており、これを世間に明らかにしたら、大変なことになる。」との森山氏発言が紹介されている。
報告書では、森山氏は高浜原発3号機、4号機の増設時に関西電力と何度も面談し、増設に関して依頼を受けたと話していたとする。このことに関して森山氏は、当時の関電トップから手紙やハガキを受け取っており、それを保管していることを語っていたとしている。
重要なことは、これらの書類や手紙にどのような事実が記載されているのかを確認することだ。森山氏はすでに故人になっているが、関係書類はいまも保管されている可能性が高い。これらの文書を確認し、内容を公表することが求められる。森山氏が解放同盟の役職に就いていたことをもって、森山氏に非があり、関電は被害者であると短絡的に結び付ける発想そのものが、差別の構造そのものだ。
解放同盟はコメントで、
「明らかにされなければならないのは、原発建設を巡る地元との癒着ともとれる関係であり、それにともなう資金の流れの透明化こそが、この事件の本質であるはずだ。それを部落差別によって、事件の本質を遠のかせてしまうことになることだけは本意ではない。原発の誘致・建設に至る闇の深さという真相を究明することは棚上げし、人権団体にその責任をすり替えようとする悪意ある報道を許すことは出来ない。」
としている。正論そのものだ。問題の本質を歪めて関西電力の対応を容認することは決して許されることでない。
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