クルーズ船のチャーターはいかが? 医療崩壊に備える先手とは

社会・メディア

両角敏明[元テレビプロデューサー]

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本稿は3月17日昼に書いています。イタリアでは老人重症者から人工呼吸器をはずして若者に付けかえているという報道がありました。これは野戦病院で戦闘に復帰できそうな兵士から順に治療して行くやり方だそうで、まさに世界コロナ大戦のようです。

筆者のような高齢で基礎疾患があり、もはや戦闘能力を失った年金生活者は重症化しても人工呼吸器をつけてもらえない日が近づいているのかもしれません。なんとしても医療崩壊を防がないと老人はエライ事になりそうです。連日のコロナ報道を視ていると、いまだに二つの論の対立が残っています。PCR検査を拡大すべき派とPCR検査を抑えるべき派の違いです。検査拡大派は、できるだけ早く多くの感染者を見つけ出して動きを規制し感染拡散を防ぐ。併せて検査により感染の実態を把握した上で合理的な対策を打つべき、と主張します。

一方の検査抑制派は、PCR検査数が増えれば隠れていた感染者が発見されてたくさんの人が病院に殺到し、たちまち病院のベッドは埋まり、医療崩壊がおきて重症者の対応も出来なくなると懸念します。どちらも専門家の意見なので、素人がどうこうは言えないのですが、よく聞けば両者の意見は真っ向から対立しているわけでもありません。実は、どちらも基本的には多くのPCR検査をした方が良いという点は同じで、抑制派も日本の医療体制が耐えられるなら、PCR検査を拡大して早期発見、早期治療に努めるべきと考えているのです。それはそうです、検査を抑制したって感染や発症を抑制できるわけではありません。

すごい数字が厚労省から明らかにされています。流行がピークに達した時の1日あたりの患者数予測です。厚労省が全国集計値の発表を拒否していますから東京だけを例示します。

*外来患者:45,400人

*入院患者:20,450人

*重症患者:700人

東京だけでこれでは、全国を考えれば気が遠くなります。これに対し、安倍総理は国会で「全国で感染症指定医療機関の病床を最大限動員し12000床を確保」と答弁しました。これは総理お得意の姑息な印象操作で、感染症指定病院の重症者用病床の空きは全国合わせても1000床だけです。残りの11000床は一般病院のふつうの病床だと厚労省の局長が総理の目の前で答弁しています。総理によるベッド数の印象操作発言はこれが3回目で、治らないですね、総理の印象操作病。

いずれにせよ政府が確保した12000病床では、ピーク時に東京が必要とする病床の半分にも及びません。単純に全国で考えれば、政府が用意した1万2千ほどの病床に20万人が殺到することになります。医療崩壊です。ただし、PCR検査を抑制したからといって防げるわけではありません。検査を抑制しても感染と発症は減りません。

この現実に大阪府はすでに独自の対策案を進めています。これまでのやり方にとらわれずに感染者を仕分け(トリアージ)して対応するものです。

1. 宿泊施設・自宅待機

2. 休床・廃止病棟待機

3. 一般病院入院

4. 感染症指定病院入院

症状により患者を上記4段階に仕分けして隔離し、感染拡大と医療崩壊を防ぐというものです。感染者が増えればどの自治体もいずれこの方法を採る事になるというのが大方の見方です。これを実現するにはふたつの政府対応が必要になります。

ひとつは、検査で陽性の場合、現在は指定感染症の枠組みでたとえ無症状でも病院での隔離が求められています。この縛りを外さないと上記1.と2.の方法を採れません。すでに政府は自治体に対して「柔軟な対応を」と言ってはいるようですが、国民に向かっても医療者に向かっても明解な原則変更メッセージを発する必要があります。

[参考]<新型コロナ>瀬戸際2週間満了3/9時点で感染状況は一段深刻化 -植草一秀

もうひとつは、政府が宿泊施設などへの協力要請を宣言することです。政府が予算を付けて宿泊客激減で苦しんでいる宿泊施設を有利な条件で長期間借り上げ、無症状・軽症の感染者の隔離施設とすることです。感染対策などのスタッフ訓練や、食事提供をはじめとする様々な患者サポートにできるだけ周辺の業者も巻き込んで、コロナ不況に苦しむ地域にお金が落ちる方法を採るべきです。それでも足りなければ、政府が大企業に呼びかけて、大規模保養所などの厚生施設の提供を求めてはどうでしょうか。感染者隔離にはトイレ、バスもしくはシャワーつきの個室が必要ですから、こうした取り組みが必要かと思います。

いっそのこと、世界中がクルーズ旅行などしている場合ではなくなっていますから、日本が率先してダイヤモンド・プリンセスやアメリカにいるグランド・プリンセスなどの大型クルーズ船をかき集めて半年ほどチャーターし隔離病室船としてはどうでしょう。1船で1000室程度のトイレ、バスもしくはシャワーつきの個室病室が生まれます。港の近隣業者からの食事の提供をはじめ様々な業務提供を求める事で地域経済活動にも寄与します。係留する埠頭に臨時病院を開設し医師が常駐すれば、日常診察、急変者対応、検体採取、検体運搬なども効率的ですし、患者も安心です。

埠頭に屋台をならべて楽しんでもらったり、アクリルやビニールで完全に仕切った家族や友人面会スペースを作ったり、安全手段を講じて野外コンサートやお笑いステージ、寄席などを開いたり、安全な範囲でいろいろな手を考えて、患者には楽しい隔離生活を、地元にはささやかでも経済活動を、というのも悪くないような気がするのですが。まあ、すでに生産性をなくしたジジイが考えるまでもなく、賢明なる政府・官僚のみなさんは素晴らしい手立てを考え、とっくに準備を進めているものと期待するのですが、昨今の政府迷走を見ていると全幅の信頼を置く事も・・・。なにせ厚労省はいまになっても各自治体からPCR検査数の報告がそろわない、などと言っているありさまですし、総理はいまだにせっせと印象操作ファーストに努めておられるようでは・・・。

専門家の言う危機管理の鉄則は、大きく構えた早い対応、後の推移に現実対処、だそうです。いまリアルに何をやっているかが大事で、安倍政権お得意の「やってるフリ」は危険です。後手後手とは、「やってるフリのなれの果て」でございます。

 

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