あの時、スカパーの幹部は“頭を下げるレジャーチャンネルの営業マン”にこう言った。

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家]執筆記事

「お宅、博打の放送でしょ。ギャンブルですよね。そういう放送局が入るとスカパーの品位が落ちちゃうんだよね。ウチ見てる人高尚なのよ、けっこう。」
「でもウチにチャンネル持ちたいんだ?ちゃんと視聴者集められる?あまり見る人少ないと止めてもらうこともあるよ」

おそらく、このようなやり取りがあった。
レジャーチャンネルは、競艇の放送をするチャンネルである。もともと競艇界では全国に24ある競艇場が場内放送のためにテレビ局が持っているものと同等の高規格テレビカメラを持っていた。衛星回線も押さえていたのは、地方にある競走場の舟券を、ボートピアと呼ばれる競争水面を持たない投票所でも、買えるようにする計画があったからだ。
競艇界はスカパーに先んじて独自放送を開始し、独自のチューナーとアンテナを販売して、全国の競艇場の舟券を電話投票でも買えるシステムを作った。莫大な維持費がのしかかった。
その矢先である。スカパーなどの衛星放送が始まった。独自中継をやめ、この衛星放送にチャンネルを変えれば、より安い維持費で競艇放送ができる。そこで、スカパーにチャンネルを持とうとして、冒頭の会話となったのである。
渋るスカパー。粘る競艇側。同じギャンブルなのに、中央競馬放送のグリーンチャンネルが大歓迎で競艇のレジャーチャンネルがお断りなのはおかしい。貴族のスポーツだから競馬はいいのか。レジャーチャンネルどさくさでスカパーにチャンネルを持つことができた。
困ったのは、大枚払って独自法送受信用のチューナーとアンテナを買ったファンである。無用の長物となったうえに新しい機器を買わなければ、放送自体見られなくなる。暴動が起こってもいい状況だ。しかし、競艇界は太っ腹だった。これまでのファンに無料でスカパーを受信できる機器を配ったのである。
電波移行から、10数年が過ぎ、いまやレジャーチャンネルはスカパーに14チャンネルを持つ巨大放送局となった。ファンは、やろうとさえ思えば毎日全国の舟券を居ながらにして買うことができる。僕は、ネット投票のサイトを3つのパソコンを使って開き、平和島、浜名湖、大村、住江、4競艇場の舟権を同時に買って、1度も当たらず、1日で10万円すったことがある。バカである。
競艇のテレビ放送は隆盛であるが、気になるうわさがある。
競艇ファンの平均年齢が、毎年1歳ずつ、上がっているというのだ。若い新規ファンが参入していないということだ。
競艇界は、地上波テレビでバンバンCMを打ち、レジャーチャンネルを維持し続ける。なんだか、破滅前の大騒ぎのような気もして、朝早く競艇場に行って、ガソリンの匂いをかぎ、カレーライスを食べ、予想屋のおっちゃんをからかい、コーチ屋のおっさんの見せ金の札束の厚さにびっくりする振りをしながら、現場で舟券を買うものこそ、本当の競艇ファンだと、昔は思っていた僕は、心配なのである。
 
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