野党乱立区では立憲候補支援できず-植草一秀

政治経済

植草一秀[経済評論家]

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本来は政権交代も不可能ではない選挙。安倍・菅政治が9年近くも続いた。2012年12月に発足した安倍内閣は「アベノミクス」を掲げた。金融緩和、財政出動、構造改革を三本柱として成長を実現する。成長が実現すれば所得がすべての人に行き渡る「トリクルダウン」を唱えた。金融緩和政策を実行したが公約のインフレ率引き上げは実現しなかった。財政政策は、2013年度には発動されたが2014年以来、二度の消費税増税が強行され、消費税率は5%から10%へと2倍に引き上げられた。

日本経済の成長率は超低位推移を続けた。四半期実質GDP成長率(季節調整済前期比年率)の単純平均値は民主党政権時代の+1.6%に対して第2次安倍内閣発足後は+0.8%。最低最悪の経済低迷期を創出した。大企業利益は激増したが労働者の賃金は大幅に減少した。一人当たり実質賃金は2012年から2020年までの8年間で5.6%も減少した。

世界最悪の賃金減少国になった。

安倍晋三氏は雇用が増えたと言うが、増加した雇用の大半は非正規雇用。経済全体が史上最悪の状況下で大企業収益が激増したことは、労働分配所得が大幅に圧縮されたことを意味する。雇用が増えたと言うが減った労働者所得を分け合う人数が増えたわけで、一人当たりの実質賃金は史上空前の減少を示したのだ。安倍・菅内閣の悪行は経済だけにとどまらない。特定秘密保護法、戦争法制、共謀罪創設などの悪法を次々に制定。同時に、森友、加計、桜など政治私物化事件・事案のオンパレードだった。

コロナに対しては「後手後手・小出し・右往左往」の対応を繰り返し、混乱だけを拡大した。これらの「実績」を背景に、菅内閣の支持率が危険水域の3割を割り込んだ。

このまま選挙に突入すれば自民党大敗は免れない。菅義偉氏は辞意表明に追い込まれて選挙の顔が差し替えられた。日本を支配する勢力は対米隷属と新自由主義経済政策を継承する河野太郎氏を後継首相に就任させようとしたが失敗した。新自由主義経済政策の転換を唱える岸田文雄氏が後継首相に就任した。日本支配勢力は早期の首相交代を目論み始めていると考えられる。

この状況下で野党第一党が強いリーダーシップを発揮すれば政治刷新を一気呵成に実現できる。野党第一党が示すべきリーダーシップは共産党を含む強固な野党共闘の構築。この選挙を強固な野党共闘で戦えば、一気に政権奪取を実現することも可能だったと思われる。ところが、立憲民主党が「ゆ党」に先祖返りした。与党と野党の中間が「ゆ党」。背後にCIA対日政治工作がある。反自公の革新勢力が一枚岩になれば日本政治が刷新されてしまう可能性が生じる。

これがかれらにとっての「悪夢」。

何よりも重要なことは反自公勢力を分断すること。「共産党と共闘する勢力」と「共産党と共闘しない勢力」に分断する。もちろん、日本支配勢力が加担するのは「共産党と共闘しない勢力」だ。その手先として活動しているのが国民民主党と連合六産別。連合六産別は大企業御用組合の連合体で一般労働者の代表ではない。この勢力が国民民主党を支配し、立憲民主党にも介入している。トヨタ労組が立憲から退き、自公の支援を示唆しているが、連合六産別は自公を支援するのが正しい。立憲民主党は御用組合と連携するのでなく、本当の労働者と連携するべきだ。

しかし、立憲民主党の枝野幸男氏は連合六産別に秋波を送る。主権者は一本化された野党候補を支援するべきだが、一本化しなかった選挙区では立憲民主党以外の候補者に投票を集中するべきだ。国民民主党の立ち位置は自公陣営の側にあり、投票対象から外れる。野党共闘を強固にする視点から、今回総選挙では、この対応を示すべきである。

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