<テレビが作り出す「名医」>医療さえも「誇張」するテレビの怖さ


高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]

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最近のテレビ番組には「医療もの」が増えたような気がする。その取り上げ方は、病気の恐ろしさを訴えるもの、治す画期的な方法の紹介、そして名医の紹介ということになる。

病気を軽く考えてこじらせたりしてはまずいから「恐ろしさを訴える」のは確かに有効な方法だろう。画期的な方法の紹介というのも、絶望しなくては済むこともあるから重要だ。どうせ医者にかかるなら名医にかかりたいというのはどの人にもある感情だ。

こうしてテレビで名医がますます作り出され、そこに患者が殺到する。その辺がテレビの怖いところだ。患者の側から考えると「テレビに出ていた」ということは、その人を信頼する上で重要なファクターになる。

「テレビに出ていない人よりは、テレビに出ている人の方が良いのではないか」

と考えるのは自然な感覚だろう。テレビ制作者の側も必死に調べるから、それなりの実績を残した人が選ばれているはずだ。

しかし、怖いのは誇張だ。どこか誇張しすぎることがないか、心配になる。なによりテレビ屋は誇張が好きだ。

これまで筆者が取材した医師の中で、今も記憶に残っている人がいる。確か小田原の小さな医院の内科医であったと記憶している。50代の後半だっただろうか。

その診察室に入ると医療器具といえるようなものはほとんどなかった。あるのは聴診器だけといっても良かった。話していると、彼は非常に興味ぶかい話をした。

「医師の役割は病気を治すことばかりではない、治そうとするから無理が出る」

と言うのだ。

医療は細かく専門が分かれ、専門領域はどんどん難しくなっている。治そうとするとそこに足を踏み入れなければならなくなる。踏み入れようとすると分からないことでも処方しなければならなくなる。しかし、それは無理だ・・・と、こんなことを言っていた。

治そうとしなければ見方が変わる。重大な病気なのか、軽い病気なのか、それを判断するというのだ。極力薬は出さない。だから一番大事なのが聴診器。異常があるのかどうかを判断するにはこれが一番だという。

この医院にはレントゲンも、ましてCTスキャンもない。高額医療器具を入れると、どうしても収入を増やさなくてはならないからだという。すると専門外の病気の薬も処方しなければならなくなる。つまり、病気を治そうとすることになる。そこに危険があるという。

薬を出さなければ医療費も安い、普段からよく話をすれば重大な病気かそうでないかは分かるというのだ。

目指すのはホームドクターだ。専門医にかかる必要があるか、放っておいても良い病気か、それを判断するのが一番大事だという。こういう経営の仕方では経済的には大変だろうと思った。朴訥とした話し方からは人柄の良さが感じられた。

信頼してやってくる患者の数も多いのだろう。こういう医師の姿もあると思えた。筆者が製作した番組では、いくつかの医師の中に彼を忍び込ませて紹介した。

生半可な知識で投薬や処置をする医師よりも、体調の変化について相談できる医師があるほうが確かに良い。治す知識が無いのにいつまでも処置をされ手遅れになるのは適わない。

だが、テレビで取材し紹介するにはこんな医師は向いていない。やはり、劇的に治せる人、断定的に言ってくれる人が良い。だが、番組の放送ではあるコメンテーターが「こんな医療のあり方」をほめていた。

さて、放送が終わり、この医師と話す機会があった。彼はこれですっきりしたという。やはり迷いがあった。手に負えないことがたくさんある。勉強が足りないのではないか、というような気持ちになる。でもこれで人に任せる、という踏ん切りが付いた。人に託すということであれば、勉強も安心してできる、自分が治さなくて良いのだから・・・と、そんな意味のことを言った。

彼はテレビ的な意味では名医ではない。専門医でもない。いわゆる「普通の医者」だ。テレビ屋はどうしても誇張したくなる。誇張しやすい取材対象を選んでしまう。斬新な手法や、専門的な知識がほしくなる。

だが、こんな医師を取り上げたことにも、意味があるかなと思った。 テレビの役割は、名医をたくさん作り出すことだけでもない。普通の人をテレビに登場させるのもテレビの役割だ。病気の大半はこうしたかかりつけの医師の判断が重要なのだから。誰でも名医にめぐり合いたい。

だが、めぐり合うまでの過程が難しい。誰も自分を特別扱いしてくれない。しかし、特別扱いを望む。ここに医療がおかしくなる秘密がある。まず、真剣に話を聞いてくれる人を探すのが早道だ。

テレビとは、こんな「平凡な人」を取り上げても見てもらえなければならない。難しいのはこれを「視聴者に見てくれる番組」に出来るかということだ。そこが難しいから、名医を作り出すことばかり考えるのも筋違いのような気がする。

後はどううまいキャッチフレーズをつけるかのような気がする。それさえ出来れば「普通の人」も取材できる。面白くすることも出来るような気がする。特に医療のような分野では誇張は怖い。

 

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高橋正嘉

高橋正嘉(たかはし・まさよし) TBSビジョン専務取締役 1951年生まれ 明治大学文学部卒業  TBSテレビ「そこが知りたい」に立ち上げから終了まで15年間携わる。 BS-TBSで「唐招提寺」プロジェクト・プロデューサー。 芸術祭ノンフィクション部門優秀賞を受賞。現在、TBS「時事放談プロデューサー」