<こんな病院はイヤだ!>2才児死亡事件から見える東京女子医大病院の杜撰な管理と緩すぎるコンプライアンス/ガバナンス

ヘルスケア

藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター

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群馬大学病院のある医師による腹腔鏡手術で8人の方が亡くなり、同じ医師の開腹手術でも10人の患者さんが亡くなった疑いがあるという事件。もちろんこの医師個人に問題があることは確かでしょうが、そんな医師に次々と手術をさせ、死亡例が多発していることにも気づかないという病院の管理体制の無責任さには驚くばかりです。
病院長を始めとする組織幹部の方々の対応を見ていると、どこか己の責任に対する認識に欠けるように受け取れます。このような群馬大学病院の態度は鎮静剤プロポフォールによる2歳児死亡事件を起こした東京女子医大病院幹部の態度と良く似ている感じるのは筆者ばかりではないでしょう。
ある文書を読むと、東京女子医大病院がどのようであったのかが透けて見えてきます。
昨年2月に「ごく簡単な手術だから」と首にできた良性の腫れ物を除去する手術を受けた2才児が術後に、ICUで人工呼吸中の小児には禁忌である鎮静剤プロポフォールを大量に投与されて死亡した事件は謎と驚きの連続です。
事件については東京女子医大病院が第三者委員会を設置しその報告書が出ていますが、一部だけがマスコミにより伝えれているものの一般に全文公開はされていません。
この文書とは別に2月6日に東京女子医大病院から『医療安全の改善に向けた当院の取り組みの進捗状況報告』という文書が出されました。これは病院のHPで公開され、15項目に分けて安全性向上のための取り組みと進捗状況について報告されています。読むとこれまでのこの病院の状況にあらためて驚かされることがあります。気になる項目ごとに見て行きます。
なお赤表記は筆者です。

<4.中央ICU特定集中治療室管理料算定の自粛>
2015年1 月より中央 ICU 特定集中治療室管理料算定の自粛をしております。中央ICUには、前述したようなICU医師の診療体制、主治医との連携、チーム医療の実践などに関して、運用上のリスクが多数露呈し、本事例の医療事故の原因となりました。

この病院のICUでは〝運用上のリスクが、多数、露呈〟していたんですって、たけしさんのギャグじゃありませんが、こんな病院はイヤだ、ですよね。

<5.小児術後の鎮静方法の見直し>
小児術後のICU管理では、2012年より、プロポフォールを、心臓術後の人工呼吸管理下(注)の小児には、原則使用しない方針に変更し、2012年10月以降は、15才未満の小児へのプロポフォールの使用を完全に中止しておりましたが、他の7箇所のICUについても、2014年3月5日以降は、ICUで小児における人工呼吸管理の鎮静目的の使用を禁止いたしました。(筆者注)心臓病ICUではという意味

プロポフォールは2001年に承認・発売されています。そして遅くとも2005年には添付文書(取扱説明書)に〝ICUで人工呼吸中の小児に対する使用は禁忌〟であることが明記されています。
〝禁忌〟であっても東京女子医大病院では2012年までは8つあるICUすべてで使用され続けました。ところが心臓病ICUでは理由は不明ですが2012年10月以降は完全使用中止にしています。
しかし問題の中央ICUを含む7つのICUでは2014年3月5日、すなわち今回の小児死亡事件が起きるまでは使用中止にしていませんでした。なぜそのようなことが起きたのか・・・。昨年12月に出された院長名文書にはびっくりするようなことが書かれています。

その(心臓病ICUでは使用禁止とした)情報が院内に周知徹底されていなかったために、本年2月21日に中央ICUにおいてプロポフォールが男児に鎮静目的で使用され、不幸な結果を招いたことは、極めて重大な管理上の不行き届きでありわれわれは猛省すべきと考えています

同じ病院でありながら、ある部署では危険だから使用中止、でもほかの部署では使用OK。そうなった理由は不明。
意志決定プロセスと情報の周知徹底がまったくいい加減、それで人の命を失わせておいて、われわれは〝猛省すべきと考えている〟んだそうです。この病院、いったいどうなってんだと言いたくなります。

<7.ハイリスク薬の適正使用の管理>
中央ICU医師が(筆者中略)禁忌とされているプロポフォールを選択したにも関わらず、担当薬剤師にはその使用が禁忌であるとの認識が欠如していたため、禁忌の疑義照会をしておりませんでした。
<9.多職種チーム参加型の集中治療管理の推進>
今回の事故の本質は、病院全体のチーム医療の未熟さにあります。(筆者中略)
チーム医療の原点に戻り、診療録や看護記録への記載、チームに属する医療スタッフ同士の情報交換、多職種カンファレンスの定期開催など、当然行われているべき個別の取り組みを徹底いたします。
<12.インシデント・アクシデント報告の徹底>
当院(筆者中略)マニュアルには、インシデント・アクシデント発生時には、院内報告システム準じて速やかに報告することになっていますが、未報告例も数多く見られるため、(筆者後略)

どうでしょうか、この文書を読んでいると、多くの命を預かる大病院としてはどうにも管理が杜撰で、コンプライアンス、ガバナンスが信じられないほどに緩い、とお感じになりませんか。
やっぱり、「こんな病院はイヤだ」です。
最後に、基本的な疑問について補足しておきます。一般論として、薬剤に添付されている説明書で〝禁忌〟と明記されている使用法を無視して投与していいのかという疑問についてです。日本集中治療医学会の文書にこんな記述がありました。
〝「禁忌」という用語は「禁止」とは異なり、専門家としての医師の裁量を法的に拘束するものではないとされています。しかし、使用に関しては当該薬に関する十分な知識を有し、患者の安全管理が厳格になされなければならないことは言うまでもありません。〟
この学会が今回の事件をきっかけに行ったアンケート調査(約290サンプル)ではプロポフォールの〝禁忌事例〟(ICUで人工呼吸中の小児)での使用を概ね8割近い病院が〝禁止〟としているものの、プロポフォールを禁忌事例で使用する病院も少なからずあるのが現実です。
一概にそれが悪いと決めつけることはできませんが、〝禁忌〟薬を使用するには病院の安全管理体制、コンプライアンス、ガバナンスがきちんと効いていることがマストではないでしょうか。
この日本集中治療医学会は日本麻酔科学会や臨床疫学専門家の協力も得て、小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)に対するプロポフォールの医学的妥当性および安全性を代替薬との比較も含めて検討する研究班を立ち上げるとしています。
次の被害者があらわれないよう、早急な成果を期待します。
 
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