<TBS「ウロボロス」は禁断の場所>撮影の裏側をバラす副音声=「ウラバラス」がおもしろい

テレビ

黒田麻衣子[国語教師(専門・平安文学)]
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ドラマ本編に、出演者自身が「ツッコミ」を入れたり、撮影の裏話をしたりする声を副音声で流す手法は、実は先にフジテレビが『ファーストクラス』(2014/主演・沢尻エリカ)において、やっている。
『ファーストクラス』は、イジワルキャラの女性の毒舌が話題になったことから、「副音声で一話すべてに『心の声』をお届けします」であったのだが、キャラを演じているのか、女優さんご本人の思いを話しているのか、途中でブレてしまったことで、中途半端な内容に終わってしまった。
その点、今回のTBS『ウロボロス〜この愛こそ、正義。』では、完全に「撮影の裏側をバラす」という「裏バラス」に徹している点で、非常にクオリティの高い副音声に仕上がっている。
女子にとって、ある意味「永遠の憧れ」は「あの、男子のトークに交ざりたい」だ。異性のいない場所で、同性同士が他愛ないおしゃべりに興じている様は、互いに「禁断の場所」であり、「一度で良いから盗み聞きしたい」トークである。
「裏バラス」は、ドラマを見ている自分の隣で、まるで出演者の3人が「野郎トーク」を繰り広げているような錯覚に陥りそうになる。完全な「裏ネタ」「撮影中の暴露話」なので、途中で「ちょっと静かにしてよ、セリフが聞こえなくて、内容がまったく頭に入ってこないじゃない!」とツッコミたくなる。
でも、そういう「ツッコミを入れる私」がたまらなく快感で、幸せでもあるのだ。まさに、「裏バラス」は麻薬だ。当初の予定では、第5話と第6話限定の取り組みが、視聴者の熱烈なアンコールに応える形で、第8話にも帰ってきた。
第8話には、主演の小栗旬・生田斗真と進行役のムロツヨシに加えて、吉田羊も「参戦」したのだが、個人的には吉田抜きの純粋な「野郎トーク」が聞きたかった。吉田もそこは心得ていて、

「自分も『裏バラス』ファンだから、参加したくなかったのに、スタッフがどうしても出ろって言うから」

と語っている。
さて、小栗旬・生田斗真のファンには垂涎モノの「裏バラス」だが、お二人のファンでなくとも、ドラマ好きをワクワクさせる「裏ネタ」も満載だ。初めての「裏バラス」となった第5話では、序盤で足を拳銃で撃たれて負傷した竜哉(小栗旬)の芝居について、小栗本人が「この後の、姐さんに会うシーンで、どういう芝居をするかスタッフと話し合った」ことを語っている。
ヤクザが姐さんに面会する、サシで話すシーンなのだから、いつもは正座しているが、竜哉はこのとき、足を負傷しているので、正座は痛くてできないんじゃないか、では、どうするか、とかなり悩んで、相談した、と告白している。
結果、どういうシーンに仕上がったのか、その種明かしは、本編で、ということだ。数十分後の本編で、竜哉が姐さんと対峙するシーンは、ほんの1~2分なのだが、「たった1分、たった1シーンにも、これだけの思いをもって作られているのだ」と思うと、妙に感慨深く、忘れられないシーンとなってしまった。
また、イクオ(生田斗真)と竜哉(小栗旬)の二人が車内で会話をするシーンでは、このシーンの撮影秘話を語ってくれた。
画面は正面からのカット、運転席のイクオ側からの窓越しのカット、助手席の竜哉側からのカットが相互に組み合わされた映像に仕上がっている。助手席の竜哉(小栗)はタバコを吸っている。窓を閉めたまま車内でタバコを吸うのは、非常に煙かったと苦笑しながら回顧する小栗と生田。小栗が語る。

「これ、見てる皆さんはわかんないと思うんですけど、こういうのをカットバックっていうんですけどね。この時にはね、(窓は閉まってる設定なんだけど)窓を片方ずつね、開けて撮ってるんですよ。そうじゃないとね、窓to窓で撮ると画面にフィルターがかかってしまいますから。」

進行役のムロツヨシが合いの手を入れる。

「撮影の仕方まで教えてくれる!」

「うん。でもこれ、正面からのショットっていうのは、窓閉まってる。だからね、窓開いてる時はね、煙の流れがね、窓開いてるからそっちの方に行っちゃうんですよ。」

なるほど、そんなことを言われると、録画ビデオを巻き戻して、煙の流れまでチェックしたくなる。小栗が手に持っているタバコの長さまでチェックしてしまったけれど、きちんと辻褄合っていた。
さすがは「役者バカ」と呼ばれる小栗。芸が細かい。このワンシーンを撮るのにも、カメラの位置を変えて、同じ芝居を何度もするのか、と、あらためてドラマ作りの大変さを慮る。
完成披露の記者会見などで、役者の方々が「あのシーンでは、感情を持続させるのがタイヘンだった」とお話されているのを聞いても、「一つのシーンに『感情の持続』ってどういうことだろう?」と疑問に思っていたのだが、今回の二人の暴露話を聞いて腑に落ちた。
同じシーンを、カメラの位置を変えて何度も撮り直すから、「感情の持続」が必要であったのだ。何度も同じ演技をして、何度も撮って、それをつないで一つのシーンが完成する。考えてみれば、当たり前なのだけれど、ふだん視聴するだけの私たちは、制作側のその努力に思いが至らない。
「裏バラス」は、プロの仕事に迫る『プロフェッショナル~仕事の流儀~』の側面も持っていて、おもしろい。
 
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