7月11日「人志松本のすべらない話」は人選ミス?各話を寸評・採点してみたらこうなる

テレビ

高橋維新[弁護士]
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2015年7月11日放映、フジテレビ「人志松本のすべらない話」について述べてみたい。
<1>全体の演出面
(1)観覧ゲストについて
前回(https://mediagong.jp/?p=7350)に引き続き「0」であった。何度も述べている通り、観覧ゲストを入れてもおもしろくない時間が増えるだけで単なるギャラの無駄なので、今後もこの状態は続けてほしい。
(2)しゃべり手について
目についたのは、芸人でもない(というか「演者」ですらない)板東英二と、世間的には「ポンコツ芸人」として通っている春日俊彰(オードリー)及び出川哲郎である。この番組は「おもしろい話」さえ持っていれば喋り手は誰でもいいので、この3人を入れたこと自体には特に文句はない。
ただ、この新参者のラインナップを見ると、「スベリ枠ではないか」という邪推はどうしても働く。春日は相方の若林正恭のツッコミがあって初めて活きるポンコツであるし、出川はカミカミの緊張しいで、テレビ朝日「アメトーーク」でも散々の扱いを受けている。
板東も、この間の不祥事があったのにテレビに必死にしがみついており、ますますイジりやすいタレントになっているという状況があった。こういった事情からすると、3人ともスベリ枠でもおかしくないし、番組も当初はスベリ枠扱いしようとしていたのではないかとも考えられるが、実際はそうはなっていなかった。
まず春日と出川は、単純に話の出来が良かった(春日はMVS[Most Valuable すべらない話]もとっていた)ので、番組としてスベリ枠扱いしにくかったし、スベリ枠扱いできていなかった。そうなると、「スベリ枠」を活かすには板東をターゲットにするしかなくなる。実際、板東の出来はよくはなかったが、周りがヘンに感心する相槌を打ってしまっていたため、そういう演出にもなっていなかった。
結果、スベリ枠が不在の状況になり、村本大輔(ウーマンラッシュアワー)という明確なスベリ枠がいた前回と比較して笑いがワンパターンになっていた。もっと分かりやすい形でスベリ枠を出すことを心掛けてほしいと思う。ただ、スベリ枠を村本のみに頼らなかったのは素直に評価する。
<2>すべらない話の作り方
細かい技術論は色々あるが、とりあえず大きなものを一つだけ。
「すべらない話」は、基本的に自分一人で笑いをとる必要がある「ピン芸」である。そして、自分のボケに自分でツッコんでも面白くないというのはお笑いの鉄則であるため(https://mediagong.jp/?p=8023)、こういったピン芸においてツッコミという手段は使えない。
そうなると、ボケ単体で勝負する必要があるが、単体で勝負できるほどの強みのないボケの場合、「フリ」をうまく使う必要がある。「フリ」というのは、ボケに先立って通常の状態を受け手に説明あるいは設定するための技術である(https://mediagong.jp/?p=7899)。
卑近な例であるが、「実家に帰ったら居間で知らないおばちゃんが寝てたんですよ」というオチのすべらない話をすると仮定する。このままでは爆笑は覚束ないので、フリを入れて分かりやすくする。すると、こうなる。

「普通実家って言うのは安心して帰りたいじゃないですか。実家帰ったらいつもの『普通の光景』に出迎えられたいじゃないですか。それがさ、この前帰ってさ、玄関ガラガラーって開けて居間に行ったら、見たこともないおばさんが仰向けでグアーって寝てるのね」

このうち、「普通実家って言うのは安心して帰りたいじゃないですか。実家帰ったらいつもの『普通の光景』に出迎えられたいじゃないですか」の部分がフリである。「実家に帰ったら通常どうなるか」をボケのズレの前に説明して、ボケにおける「実家に知らないおばさんが寝ている」というズレを際立たせるのである。
まあこのフリも、できるだけ自然に入れないと、「この人は話をおもしろくするために無理にフリを入れているな」というのが受け手に分かってしまい、結局ハードルを上げてしまう。ボケの直前に不自然に入るフリを筆者は「ドーピング」と呼んでいる。本当にすべらない話は、状況をありのままに説明するだけで自然とフリも果たされているものである。
<3>各話寸評
スベリ枠のものを除けば、4段階評価である。
◎:爆笑
〇:声を出して笑った
△:おもしろいとは思ったが声を出しては笑わなかった
✕:おもしろくない
ス:スベった話としておもしろかった
最初に言っておくが、◎評価の話は今回はなく、全体的に低調だった。
 
兵動1「かっこいい写真」:〇
カメラマンに「いいよいいよ」とノセられてカッコつけていたら突き落とされたという話。「カメラマンがプロとしてきちんとノセてくる」というフリからのオチがきれい。オチは、最後は兵動の容貌という視覚的な部分に頼っているので、ラジオではできない話である。逆に言うと、テレビというメディアの特性を存分に活かしている。
 
若林1「エントリーNo.4431」:✕
オードリーのM-1の時のエントリーナンバーが、若林の父が持っている自転車の鍵の番号であり、そのエントリーナンバーの話をテレビでしまくっていたら父の自転車が盗まれたという話。「そうしたら父の自転車が盗まれたんです」というオチはなぜそうなったかを一瞬考える必要があるので、もう少し説明が必要である。ただ事前に説明しすぎると予想できるオチになってしまうので悩ましいところである。つまり、題材自体からしてどうやってもそんなに大化けはしない話である。
 
出川1「松本さん御一家」:△
緊張しているのを松本からイジられた直後にサイコロが当たるのは、笑いの神様の覚えめでたき証拠だろう。飛行機で松本一家と偶然会った時の話だが、オチのポイントがいくつかあったのでもうちょっと練れると思う。
 
渡部1「八丈島の議員」:✕
オチが弱い。
 
渡部2「中指だけで けんすい」:✕
これもオチが弱い。ひな壇トークで自然発生的にするレベルの話であり、「すべらない」と銘打ってまでしゃべるほどの話ではない。
 
宮川1「沖縄にて松本さんを…」:✕
大輔は話をし過ぎて常連の中でも出がらし状態になっている感が強く、最近はスベリ枠気味である。この話もひな壇トークで自然発生的にするレベルのもんだろう。
 
春日1「台湾でトゥース」:✕
台湾で「トゥース」と連呼していたらコーディネーターにやめた方がいいと言われ、理由を聞いたら現地の言葉で「トゥース」は「血反吐を吐いて死ね」という意味だからと言われたという話。ここまででオチているので、その後の「トゥースー」なら「食パン」という意味になるから大丈夫と言われたという部分は蛇足である。どっちにしろ予想できるオチなのだが。
 
兵動2「中野さん」:〇
中野さんというチャラ男のチャラい動きがオチになっており、これをデブとハゲのフラを持っている兵動がモノマネするからおもしろいのである。すべらない話というよりモノマネである。
 
華丸1「福岡への飛行機にて…」:〇
福岡行の飛行機で自分の隣に座った外人女性がやたらため息をついたりしているので、この人がテロリストじゃないかと思って一人で心配していたら、「福岡に日帰りで行かなくてはならない」ということを嘆いていただけだったという話。「テロリストだと思って不安になった」というフリがきれいに入っていたので、優秀な話である。
 
兵動3「マラソン大会のゼッケン」:✕
マラソン大会でおもしろいゼッケンのお爺ちゃんを見つけたという話である。見つけた現場にいる人たちはおもしろいのだろうが、その話を聞かされた第三者は見つけた本人よりはおもしろいとは思えない。「現場に居合わせた自分は確かにおもしろかったが、これを話として聞いただけの人はおもしろく感じられるだろうか」というのはすべらない話をする際に常に考える必要があるが、この点の判断を誤った話である。兵動にこういう素人みたいな凡ミスはしてほしくない。
 
板東1「新聞の一面」:✕
オチにたどりつくまでが長く余計なエピソードが多い。単なるじいさんの自慢話だった。
 
ジュニア1「ラスベガスひとり旅」:✕
笑いどころが3つあったジュニアにしては珍しいタイプの話。なんか散漫な感じを受けてしまったので、もう少しまとめられると思う。
 
松本1「歯」:〇
オチの予想はついたが松本の顔芸でなんとかなっていた。
 
華丸2「児玉 清さん」:△
児玉清のモノマネがおもしろいだけであり、これも単なるモノマネである。
 
板東2「新人ピッチャー時代」:ス
これもただのじいさんの昔話の類である。あなたが年寄りだからつまらない話でも周りが我慢して聞いてくれているのだということを忘れてはならない。
 
若林2「相方・春日の実家」:△
もうちょいオチにパンチがほしい。
 
兵動4「間違い電話」:〇
おもしろいが、やっぱりオチにもう一つパンチが欲しい。
 
小籔1「吉本新喜劇・島田一の介」:△
普段全然売れることなど意識せずにひっそりと芸人をやっている新喜劇の先輩が、風間杜夫が見ている舞台でいつもより張り切っていたという話。この先輩の普段の言動をまず喋るという形できれいなフリが入っていたが、筆者があんまりおもしろく思えなかったのは「風間杜夫」がピンと来ないからだろうなあ。
 
出川2「ベッドシーン」:〇
出川がドラマでベッドシーンを演じたときの話。絡み相手の女優が口では「全然大丈夫です」と言っていたのに、胸にブワーッとじんましんができていた、という話である。この女優が口で言っている内容がきれいなフリになっている。
 
ジュニア2「西川きよし師匠」:△
西川きよしのクソ真面目さを笑うという話なので、題材としてさほど新鮮味がないのが一番の問題か。
 
宮川2「お芝居の舞台」:ス
ド下ネタのくせにオチがないという最大の問題作。まあ大輔はこういう時でもスベリ枠扱いにできるのでいいのか。
 
春日2「授業参観」:△
姪の授業参観に出るために実家に帰ったが、その前夜にキャバクラに行ってしまい、授業参観で来ていた別の母親がその店のキャバ嬢だったという話。授業参観という触れ込みなのに前半に無関係そうなキャバクラの話が入るので、これがオチに絡むんだろうなという予想ができてしまうのが問題。
 
春日3「生徒会長選挙」:△
「センソウ(おそらく、正しくは「正装」)をして臨んでる」とカンでいる部分があったので、周りはツッコんでやった方が良かったと思う。春日はスベリ枠扱いできる芸人なのだから。
 
春日4「ドイツの現地カメラマン」:△
まあ、おもしろいがオチにもっと意外性がほしい。
 
出川3「海外のゲイバーにて」:△
おぞましい話。少し引いてしまうレベルに行っている。
 
松本2「中居くんのお父さん」:〇
中居くんがメールで鶴瓶のみを呼び捨てにしていたという話である。松本は「誤字」と言っていたが、多分わざとだろう。中居くんのイメージがダウンしただけだったので、なんともなあ。
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