戦後70年特番で最高の秀作なのに視聴率が最下位だったNHKドラマ「一番電車が走った」から見えるテレビの未来


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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8月10日放送夜7時半から放送されたNHKのドラマ「戦後70年・一番電車が走った」は、秀作なのに視聴率は最下位だった。しかし、この夏ラッシュであった「戦後70年特番」の中では群を抜く秀作であった。

NHKがこのドラマを7時半という時間に編成したのは、若い世代にも観て欲しいということからだろう。テレビドラマは滅多に見ない筆者がなぜ見たか。見た理由はいくつかある。

まず第一に、

  • 阿部寛の演技が観たかった。

阿部寛は「テルマエ・ロマエ」で、ローマ人の役をやるほど、バタ臭い顔をした大柄な役者であり、終戦時に生きた日本人としては規格外である。その阿部寛がどんな演技をするのか、ミスキャストではないのか? と思ったからである。

しかし、見れば一目瞭然。まったくミスキャストではなく、むしろ適役であった。その理由のひとつには演出の工夫がある。話し方に工夫がされていた。それから、もちろん阿部の演技がすばらしかった。

国体維持の戦争に「今ひとつうさんくささを感じている人物」という芝居をそんな台詞は全くなしに演じきっている。対比されるモロ師岡の配置も心憎い。どう工夫したかはぜひ観ていただきたい。

ここで、物語の内容をNHKのホームページから引用しておこう。

「昭和20年、広島では戦地に赴いた男性に代わり、少女たちが路面電車を運転していた。雨田豊子(黒島結菜)は16歳、電鉄会社の家政女学校で学びながら乗務していた。 前年、軍需省から引き抜かれた電気課長の松浦明孝(阿部寛)44歳は、上司と部下の間での板挟みに悩んでいた。8月6日、広島に原爆が投下。二人は生き残ったが、路面電車は壊滅状態に。会社は本土決戦の物資運搬に備え、復旧を訴えた。大惨事の中、心の葛藤を抱えながら、二人は…。」

さて、このドラマを見た2つ目の興味はといえば、

  • 実話であるこの物語の最後のシーンはどういう台詞で締めくくられているか。

という部分だ。しかし最後の台詞は黒島結菜のものであったが、この台詞には少しがっかりした。

3つ目の興味は、

  • 原爆に壊滅された広島の街をどう映像にするか。

である。これは過不足なく見事であったと言う他ない。もうひとつびっくりしたのは、アメリカ軍が原爆直後に復活した路面電車の動く映像をカラーフィルムで撮っていたことである。

日本は米国の科学技術の水準を侮って無謀な戦争に突入してしまったことがよく分かる。

さてこの日の横並びの関東の視聴率は以下となっている。

1位 ネプリーグSP 12.5%(フジテレビ

  • 林修が出演して、バカを笑うクイズ

2位 世界まる見え!テレビ特捜部 12.1%(日本テレビ)

  • 40年燃え続けるクレーターが目玉映像

3位 ぶっちゃけ寺&Qさま 10.6%(テレビ朝日)

  • 全国の衝撃巨大仏

4位 主治医が見つかる診療所 9.1%(テレビ東京)

  • 血液血管大改善 ちょい足し身近食材

5位 タカトシの世にも不思議なランキング 6.3%(TBS)

  • 人気100円グッズ

6位 戦後70年・一番電車が走った  6.2%(NHK)

「戦後70年・一番電車が走った」の新聞サブタイトルを全部書くと以下のようなものだ。

「ヒロシマ奇跡の実話10代少女が被爆3日後に路面電車を運転した…復興の希望を乗せて」

この新聞サブタイトルは、全くダメである。「この話、どっかで聞いたことがあるよなあ」と言うことしか伝わってこない。NHKの人が考えたのだろう。それはさておき、筆者が褒めちぎった今回のNHKのドラマは視聴率最下位だった。

しかし、実は筆者もこの視聴率には貢献していない。1本分216円払ってNHKオンデマンドで観たからである。

つまり、今回のドラマは「金を払ってでもみたい番組」だったのである。民放の上位5局の番組は金を払っても観られないが、金を払ってまで観たい番組はない。(こういう考え方も出来る。このドラマの本来の放送時間に1時間半、じっとテレビに正対していなければならないと言う決まりがあって、その決まりから逃れるために216円払えば自由になれるとした場合、ドラマを観ることがなくても、筆者はいやも応もなく216円払う)

以上から分かることは、日本にも普及するであろう有料動画配信NetflixやHuluの敵は無料の地上波放送ではないということである。有料の NetflixやHuluの敵はスカパーやWOWWOWや、nottvやJ:COM、 It’s Com、TSUTAYA Online等の有料動画である。

勿論、NHKも有料放送に含まれる。日本側はコンテンツを充実させないとあっという間に駆逐される。視点を移すと無料の地上波テレビやBS・CSの既存無料テレビ局の敵は、無料動画である。代表的なのはYouTubeや、ニコニコ動画や、無料オンラインゲームで、これもコンテンツを充実させないと旧来のものが駆逐されるのは自明だ。

多くの現代人がYahooメールやGメールのような無料メールアドレスを持っているが、それ以外にも安定性が担保される有料のメールアドレスを持っているであろう。有料メールはつながらないときに文句が言えるから良いのである。

このようにメールの世界でも、無料と有料は戦っていない。有料同士、無料同士の戦いであった。これまで幾多の無料メールが存在したが、これらはYahooメールやGメールやLINEに、サービスの質で負けて駆逐されていった。

これまで膨大に蓄積されている視聴率というのはビッグデータのひとつである。このデータさえあればどの局が生き残るか、答えは出るはずである。その答えはこれまでの頻度による推計統計学ではなく、確率による統計のベイズ統計を使えば容易に出る。

各局のマーケティング局にはおそらく統計の専門家がいるだろうから、ベイズ統計さえ分かっていれば、その結果はもう分かっているのかも知れない。

 

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