<巨額の資金を持って黒船がやってきた>又吉直樹「火花」の動画配信権をネットフリックスが独占


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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10年くらい後にメディア史を書こうとしたとき、この出来事はエポックメイキングなこととして、記録されるのではないか。

芸人・又吉直樹の芥川賞小説「火花」を、動画配信のネットフリックス(Netflix)が独占したという記事が日本経済新聞の企業面に掲載されている。この話は他の媒体でも報じられているが、日経で報じられたことには意味がある。当たり前だがビジネスの話だ、というとらえ方だからである。

日経記事によればこうである。

「吉本興業と、電通の子会社電通デジタル・ホールディングスが2015年10月に、折半出資でインターネット向けの映像ビジネスを手がける会社を設立し、まずは『火花』を制作する」

電通デジタル・ホールディングスは資本金5000万円、電通の100%出資。持ち株会社で傘下にはもちろん巨額の売り上げを誇る会社がある。ご存じ吉本興業はかつて東証一部上場の会社であったが、上場を廃止、今、その全株式を持っているのは次のような会社である。

フジ・メディア・ホールディングス / 日本テレビ放送網/ TBSテレビ /テレビ朝日ホールディングス / 大成土地/ 京楽産業/ BM 総研株式会社(ソフトバンク完全子会社)/テレビ東京 / 電通 / フェイス / 朝日放送 / 三井住友銀行 /ヤフー / 大成建設 / 岩井コスモホールディングス / 毎日放送 /シーエスロジネット / ドワンゴ / 松竹 / KDDI /ドワンゴコンテンツ / 三井住友信託銀行 / みずほ銀行 / 関西テレビ/讀賣テレビ/ 東宝/ KADOKAWA / タカラトミー/博報堂 / テレビ大阪 / 博報堂DY メディアパートナーズ / クオンタムリープ

見事にバランスの取れた株主構成。こうなるとそれぞれの株主が牽制し合って、逆に発言権を少なくしているだろう。

「ほぼすべての民放キー局がドラマ化を打診した」と、記事にあるように、上記の株主でもあるテレビ局は打診して入札額で負けて、映像化権をとれなかったということである。電通と、吉本の株主でも何でもないネットフリックスの連合軍に負けたのである。とりあえず、みっともない。

しかし、不思議なこともある。通常小説の映像化権などは作家本人が持っているのだが、又吉は吉本所属の芸人なので吉本が映像化権を与えるという形になったのだろうか。

又吉に入る印税は吉本が何割か取るのだろうか。それも不思議な話である。小椋佳さんの、作詞作曲歌唱印税を、自行の行員だからといって第一勧業銀行(現・みずほ銀行)は取っていたのだろうかという話である。

著作権は厳密に言えば原著作者に有るはずである。又吉はすべての権利を主張して良いと思うがどうだろう。

話が横にそれた。9月2日から日本で配信を開始するネットフリックスはこの『火花』をキラーコンテンツと位置づけ、まずは独占配信するそうだ。

なぜ、吉本興業はネットフリックスに映像化権を渡したのか。

キャティングは、まだ決まっていないそうだが、キャスティング力では一日の長のあるテレビ局が具体的な名前を挙げて吉本と交渉したはずである。それでも負けた。金か。

各テレビ局には看板になる演出家がいるはずだ。でも吉本は、それにも魅力を感じなかったのだろう。ネットフリックスとの連合軍なら話題になるフリーの監督を札束で張り倒せばよい。何ならハリウッドの監督でも良い。

どこかテレビ局の色一色に染まってしまうのはビジネス的に宜しくないと吉本が考えたのかも知れない。具体的なことはほとんど決まっていないのに「1話45分で10回程度の連続作品にする方向」などと、妙に具体的なことは打ち出している。

「1話45分で10回程度の連続作品」というのは民放が3ヶ月(1クール)ごとに変えている連ドラと同じサイズだ。1時間ドラマでもCM分を引けば正味は45分程なのである。

独占配信のあとは、民放のドラマ枠にずっぽりはめて2度儲けという企みだろう。民放側も数字の取れる連ドラに困っている最中だから飛びつきやすいおいしいえさであろうが、テレビ出身の筆者としてはできればそういうみっともないことはして欲しくない。

ネットフリックスが、制作費の一部を新会社に払うと言う仕組みも吉本・電通には魅力だろう。そのお陰で資金力がなくてもネットフリックスと組めば大きな映像作品や映画も作れるようになるということだ。DVDにしたり次は映画にしたり、舞台にしたり(舞台は明治座で3時間くらいある間延び商業演劇にしない限り儲かりませんが)使い道は山ほどある。

日本で映画や番組をつくるとき、資金を出すのは、これまでテレビ局や映画会社など限られたものであった。そこに巨額の資金を持ってネットフリックスと言う黒船がやってくる。

これは、視聴形態の変化というような小難しい話はさておくとしても、その点において、資金の面において、やはり、エポックメイキングだ。

 

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