<一般人が入籍しただけでネットで話題?>ニコニコ生放送・美人生主「ボブリシャス」を楽しむネットの感性


藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)/メディア学者]

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世間一般のほとんどの人には知られていないが、一部で高い知名度と人気を誇る人がどの業界にもいる。特に、世代やユーザーに断絶の大きいメディアでは顕著だ。

例えば、ニコニコ生放送(以下、ニコ生)の配信者、いわゆる「生主(なまぬし)」などはその典型だ。一般メディアに露出することもほとんどなく、ニコ生に関心がない人にとっては、全く知られていないが、ニコ生の中では絶大な影響力と認知を誇る人気者がいる。

ニコ生ユーザー以外では認知度皆無といってもよい人物が、ニコ生そのものの盛り上がり支えているような事例は多い。それは、時としてネットの世界を超えた動員力をもったり、現実社会での活動へとシフトさえする。

もちろん、それが玉石混合であることは言うまでもないが、それでもインターネットの世界ではなまじっかの芸能人などよりも大きなインパクトを持っている場合すらある。

そんな人物のひとりに「ボブリシャス」という女性生主がいる。正確には、すでにネット放送の配信を引退しているので、元・生主ということになる。現在は、Twitterなどで日常をつぶやく程度のネット活動であるが、アカウント(@boblicious777)は、非公開設定になっているもののフォロワー数6000人超とそのコミュニティは意外にも大きい。

1993年生まれというから現在22歳となるボブリシャス。日本人の父親とのスペイン系フィリピン人の母親を持つクォーターとされ、いわゆる「美女/美人」に部類する配信者である。

ボブリシャスのネット放送は主に「雑談」であり、放送時間中、自室からとりとめのない独り言や愚痴を続けるばかりだ。お世辞にもクオリティの高い配信であるとは言い難いものだった。しかし、放送中にときたま繰り出されるハーフ/クォーターならではの「意外に高度な語学力」や「明らかに特殊な海外在留経験」などの話題、「帰国子女とは思えない腐女子っぷり」な挙動というギャップは他の配信者には見られない魅力だ。

しかも、放送中に映し出される彼女の自宅(自室)はいわゆるゴミ屋敷ならぬ「ゴミ部屋」。乱雑に散らばった衣服や雑貨で足の踏み場もなく、宅配の弁当やピザを万年床の布団の上で無造作に食べ、缶チューハイやビールをがぶ飲みする。室内に放置されたた残飯がカビや悪臭を蔓延させていると思しき状況も珍しくない。

そんなボブリシャスのルックスと生活のギャップ、見た目と人生経験のギャップが視聴者を魅了するのであろう。単なる「雑談」にもかかわらず、視聴者を飽きさせない。これは通常のテレビでは放送や制作が極めて困難なリアルショーであり、ネット配信ならではのコンテンツと言えるだろう。テレビでよく目にする「素人を出す演出」や「ドキュメントバラエティ」とも全く趣を異にする。それが仮にネタや仕込み、演出であったとしても、だ。

「ボブリシャス」と検索をすれば視聴可能な動画がたくさん出てくるので、一度、視聴してみるとその不思議な魅力に思わず見入ってしまう(もちろん、楽しめない人、嫌悪する人もいるだろうが)。彼女は、現在でもなおネット動画配信への復帰が多くのファンによって望まれ、カルト的な人気を誇っている。

例えば、12月17日にボブリシャスはTwitterで、

「籍入れたったったったったったったったあああああああああああああああああああんんごおおおおおおおお」

と結婚をほのめかすツィートをした。Twitterのフォロワーたちがすぐさまそれに反応したことはいうまでもない。続けて、

「旦那と晩酌中」

「職場の人達から貰ったお花、新居に飾ったんご。」

など、本当に結婚したことを匂わす写真入りのツィートを繰り返したことで、ネット民たちは敏感に反応し、すぐに「2ちゃんねる」でもスレッドが立った。元・人気生主とはいえ、そもそも素人であり、すでに現役でもない22歳の女性に対するものとは思えないリアクションが発生したわけだ。

もちろん、このボブリシャス婚姻情報は、今のところ本人のツィートでしかなく、もしかすると「単なるジョーク」である可能性もある。それを含んだ上で、ボブリシャスというコンテンツは、生主という枠組みを超え、「ただの素人の入籍」で大騒ぎすることのできるエンターテインメントにまで昇華しているように思える。コンプライアンスと最低限のクオリティを求められるテレビでは絶対に再現できない楽しみ方だ。

後から「入籍は嘘でした!」という軽いツィートもあるかもしれないが、それはそれでまた楽しみを生む。少なくとも、「新居」としてTwitterに映し出される自室の写真は、引っ越し直後とはいえすっきりと片付き、かつての「ゴミ部屋」には見えない点など、想像力を膨らませる要素は十分だ。

人気生主だったとはいえ、すでに配信を停止している一般の素人であるボブリシャスの真偽すらさだかではない入籍情報がネットを賑わせるという不思議な現象。ボブリシャスに限らないかもしれなが、これらはネットならではの現象と言えるだろう。しかし、この現象そのものを楽しむことができる感性が、これからのネット・エンターテインメントの楽しみ方かもしれない。

「素人には勝てない」というテレビの定石があるが、ボブリシャスのような素人の存在は、「メディアにおける素人」のあり方も含め、そのロジックを超えたコンテンツであるように思う。少なくとも、見る側に高度な「楽しむ技術」を要求するという点では、テレビよりは複雑な楽しみ方を持っている。

刹那的かもしれないし、一過性の消耗コンテンツなのかもしれない。そもそもマネタイズの難しいコンテンツであるため、テレビとの純粋な比較は難しいだろう。

それでも、この面白さをいかに伝え、どうテレビ的に置換することができるか? ここにネット時代のテレビが立ち向かわねばならないライバルが存在するように思う。

 

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藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・准教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員准教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。