<とんねるずは一般人と絡んでも活きない芸人だ>「みなさんのおかげでした」2時間半SPでは封印された「一線越え」

テレビ

高橋維新[弁護士]
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2015年12月24日に放映されたフジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした」は2時間半スペシャルであった。
内容は、「2億4000万のものまねメドレー選手権」と「とんねるずサンタ」の2本立てである。以下、一つずつ論評する。
「2億4000万のものまねメドレー選手権」
今回1年ぶりに復活した人気企画である。郷ひろみの「2億4000万の瞳」に乗せて、演者が様々なモノマネを代わる代わる行うというネタコーナーである。
元は、石橋の50歳の誕生日企画の際に、日村が披露した営業ネタだと記憶している。これが妙にウケたため、他のモノマネ芸人にも同じコンセプトでモノマネをやらせてみたというのが発端である。
同番組のものまね企画というと「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」が高名であるが、発端の段階では両企画に関わりはない。その後「細かすぎて」の演者が「2億4000万」に出てきたこともあったが、その程度の交流しかない。
さて、以前も書いたことがあるが、「うまいモノマネ」と「おもしろいモノマネ」は違うものである。
漫然と人のマネをすれば笑いがとれるというものではない。「うまいモノマネ」も、クオリティの高いものはエンターテインメントになるが、それは「うまい」「すごい」の世界でしかなく、笑いを呼び起こすものではない。
では、「おもしろいモノマネ」とはどういうものか。
要は、ズレを指摘するか生み出すかのどちらかをしてやればいい。ズレを指摘するモノマネは「ツッコミのモノマネ」、ズレを生み出すモノマネは「ボケのモノマネ」と言える。ただ両者は完全に分割できるものではなく、両方の要素を持っているモノマネもある。
「ツッコミのモノマネ」は、コロッケが得意な古典的なモノマネである。このモノマネにおいては、ボケているのはマネされる人その人である。
マネされる人は、声がしゃがれているとか、足の動きが変だとか、「ズレ」としてのバカにできる特徴を持っている。モノマネをする人は、この「ズレ」を誇張して再現する。この誇張によってズレの存在を受け手に分からせる。
そういう意味で、このモノマネの機能は「ボケの存在や内容を分からせる」というツッコミの機能そのものなのである。
ここでこの誇張をやりすぎると、それ自体が「本物がやっていないことをやっている」というズレになり、ボケの要素を帯びる。これがボケのモノマネの萌芽であり、この段階にまで至るとモノマネはツッコミとボケの双方の形態を持つことになる。
これが古典的なモノマネである。これ以外に、「古典的」ではないその他のモノマネがあるが、こちらは基本的に「ボケのモノマネ」になる。こちらは、色々パターンがある。
1.下手なモノマネ

「モノマネをやると言っているのにうまくない」というすべり芸的なズレを呼び起こすものである。

2.本人が言いそうもないことを言う/やりそうもないことをやるモノマネ

「もしも森進一がプリキュアショーを見にきたら」みたいなやつである。これも「本人はそこまでやっていない」というズレを呼び起こすものであり、「やりすぎの誇張」に通じるものがある。

3.実際にあったシチュエーションなのだが、それ自体がズレている

「鉄道が好きすぎる原田芳雄」とか、「どうでもいいことに熱くなる松岡修造」とか、そういうやつである。ズレを際立たせるためにシチュエーションを盛っていくと嘘が入ることになるため、2.との境界が曖昧になっていく。

4.モノマネ自体がズレ

この企画に出ずっぱりの日村のモノマネはそういう傾向が強い。要は、日村みたいなデブスのフラ持ちが郷ひろみという男前のモノマネをすると、それ自体がズレになるのである。「ブサイクが自信満々に女性を口説いている」というようなズレと同根のものである。

これは、日村みたいなフラ持ちにしかできないモノマネである。裏を返せば、ただ単にモノマネをやるだけでも笑いが呼び起こせる可能性があるという意味では、フラが大きなアドバンテージになるということでもある。

いずれにせよはっきりしているのは、モノマネはただ単にうまいだけでは笑いを呼び起こさないということである。笑いを呼び起こすには、ここに書いたようなひと工夫が必要なのである。
そのうえで、「2億4000万」では複数のモノマネを連続してやることになるので、全体の構成も考える必要がある。
今回の出場者は、みな概ね笑いを呼び起こせるモノマネをやっていた。ここに記した分析に沿って分類すると、概ね以下のようになる。

  • <古典的な誇張によるツッコミのモノマネ>福田彩乃・神奈月・山本高広
  • <実際にあったシチュエーション自体がズレている>ゆうぞう・ジャガーズ
  • <モノマネそれ自体がズレ>日村・(大地)
  • <単なるうまいモノマネ>原口あきまさ

無論彼らは全員複数のモノマネをやっており、この分類も本来、人ごとではなくモノマネ一つ一つに適用すべきものである。上記は、あくまで全体的な傾向に過ぎない。
ちなみにこの企画のもう一つの見どころは、モノマネ以外の場面で、とんねるずにひどい扱いを受ける日村や大地である。この辺は芸人いじりというとんねるずの特徴がよく出ているのだが、いじり方がワンパターンなのでもっと工夫をしてほしいところではある。
「とんねるずサンタ」
もう一つの企画である「とんねるずサンタ」は、とんねるずに会いたい一般人を番組で募集し、実際にとんねるずがサプライズで会いに行くというものである。
こういう企画の常としてヤラセかどうかはよく分からないところがあるのだが、とんねるずに会った応募者の感動のあまり泣き出したりえずいたりとかなり自然な反応を見せていたので、おそらくマジでとんねるずに会いたい人だったとは思われる。
ただ、とんねるずの特徴である「一線越え」の芸風を一般人相手にやってしまうと、素人を湯水に落としたり、家の中に落書きしたり、動物を放ったりする必要があるため、いくらとんねるず好きの方々とはいえ、引いたり憤慨したりしてしまう可能性は拭い切れない。
そのためロケでのとんねるずのパフォーマンスはかなり控えめであり、唯一の強みである一線越えの芸風が完全に封殺されていた。
やはり、とんねるずは一般人と絡んでも活きない芸人なのである。同じようなことをやるなら再考が必要だろう。
番組は一般人相手のロケの合間にとんねるずを飯尾(ずん)の自宅やKABA.ちゃんの実家に押しかけさせて、いつものように暴れさせていたが、事前に全く情報のなかったこれらの映像を挟んできたのも、スタッフが一般人相手のロケだけでは撮れ高が十分ではないとの危惧を抱いたからではないだろうか。
とんねるずの芸風が活きるには、とんねるずの芸風を受け止められる芸能人を相手にさせないとやはり難しいのだろう。
 
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