<五郎丸以外にも魅力的な選手がたくさん>今、日本ラグビーには世界有数の選手が集まっている


両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

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ラグビーワールドカップ・南アフリカ戦。あの試合を「ブライトンの奇跡」と言うと、いやあれは「ブライトンの必然」だという通の方がいます。

イギリスのあるブックメーカーは日本勝利に賭けると34倍、逆に南アフリカが日本に勝つと賭けても0倍だったそうです。別のブックメーカーは南ア勝利に賭ければ1.09倍、日本勝利に賭ければなんと251倍。

さらに南アフリカ勝利なら1.001倍、日本勝利なら112倍というブックメーカーまであったとか。要はほぼ100%の人が日本は負けると考え、賭さえまともに成立しないほどの試合に勝ったのですからやはり「奇跡」と言われても仕方がありません。

ただし、横綱白鵬が高校生に勇み足で負けるようなまったくの「奇跡」ではありません。

通の方が「必然」と言うほどに周到な戦略と世界一厳しいトレーニングを重ね、歴史を変えようを合い言葉に、終始規律を守り、それでいて臆することなく真っ向から攻め、ひたむきに体を張って守ることで掴んだ見事なまでに美しい勝利でしたから、日本はもとより、ラグビーをよく知る国々で大きな感動を巻き起こしたのでした。

あれから3ヶ月。たしかに日本人はラグビーを知るようになり、五郎丸選手はディナーショーのチケットが30分で完売するほどのスターになりました。でも、五郎丸選手以外のラグビー選手名を挙げられる人はどれくらいいるでしょうか。

日本ラグビーの最高峰であるトップリーグはいま佳境に入り毎週熱戦を繰り広げています。たしかに観客数は増加したものの必ずしも大きくないスタジアムでも多くの試合で満員御礼とは行かず、テレビ中継はほぼ有料のスポーツ専門チャンネルのみ。新聞、雑誌の扱いを含めサッカーのJリーグに比べればまだまだの感が否めません。

Jリーグの初期、有名外人選手、たとえばジーコ、リネカー、リトバルスキー、ストイコビッチなどなどが来日すると、こんなすごい選手が日本でプレイするのかとマスコミでも大騒ぎになりました。

アルシンドのような人気者になったキャラもおりました。ところがラグビーの方はどうにもPRが下手なのか外国人選手が大きな話題になることがありません。

実はいま日本でプレイしている外国出身ラグビー選手はかなりすごい選手たちなのです。

あの奇跡の試合の逆転シーンを思い返して下さい。南アフリカのNo.8・スカルク・バーガー選手が反則を犯し日本はペナルティキックで同点を狙えるチャンスを獲得します。しかし日本は同点ではなく逆転のトライを狙ってスクラムを選択します。

ラストワンプレイ、緊張の中、日本のSH(スクラムハーフ)日和佐選手がボールをスクラムに投入すると巧妙に突っかけてこのボールを奪おうとしたのが世界一のSHとも言われる南アフリカのフーリー・デュプレア選手です。

そして最後の逆転の瞬間、日本のカーン・ヘスケス選手を外へ吹っ飛ばそうと強烈なタックルをかましたのは南ア・ウイングのJP・ピーターセン選手でした。

ここで登場した3人の南アフリカ代表はいま日本にいます。スカルク・バーガー選手とフーリー・デュプレア選手はサントリーで日和佐選手とチームメイト、しかもデュプレア選手は同じポジションを競うライバルです。JP・ピーターセン選手はパナソニック所属です。

南アフリカ代表からはこのほかにハンドレ・ポラード選手とエベン・エツベス選手がNTTドコモに参加し活躍中です。

とりわけハンドレ・ポラード選手は今回のワールドカップで最高のイケメンと言われた甘いマスクの若きスターですから、女性にウケることは間違いありません。

さらに日本戦には登場しなかったダミアン・デアレンデ選手とウィリー・ルルー選手も近鉄に所属しています。

南アフリカばかりでなく優勝したニュージーランドをはじめ、オーストラリア、サモア、トンガなどから世界一流の各国代表選手が日本のトップリーグに参戦しています。

ラグビーの世界では世界最高峰のスーパーラグビーがオフになると多くの一流選手は各地のリーグに散って行きます。お金を重視するならヨーロッパですが試合数が多いのを嫌う選手も少なくないそうです。

その点報酬はヨーロッパの半分程度ですが試合数も半分程度、さらに文化的に興味深く、食べ物がおいしく人も良い、そして何よりも安全で暮らしやすいと日本を選ぶ選手がたくさんいます。

結果、日本のトップリーグは世界有数の選手が集まっているからおもしろいと言われていますし、今が盛りの選手たちが多いのでがすが、どうにももうひとつ話題になりません。

他国の代表選手ばかりではありません。今回のワールドカップ日本代表には外国出身の選手が11人います。そのうち6人が日本国籍で、残る5人は日本国籍ではありませんが、いずれも長く日本に暮らし、日本や日本ラグビーを心から愛する選手たちで、プロ野球の助っ人外国人選手たちとはかなり違います。

その11人の中から、テレビをはじめマスコミがもっと取り上げたら面白いのではないかと思う選手を少し挙げてみます。

まずはサントリー所属の松島幸太朗選手。彼を外国出身選手とするのは父親がジンバブエ出身、母親は日本人の南アフリカ生まれで、6才の時に日本国籍を取得したというユニークな経歴からです。

小柄ながらプレイはとてつもなく速く、鋭く、しかも勇敢です。南アフリカ戦では、今回のワールドカップで最高のトライ候補にノミネートされた南ア戦後半28分の「美しすぎる」同点トライでは、持ち前のスピードで南アディフェンスを切り裂き、五郎丸選手にラストパスを出したのが松島選手です。

守りでも足を刈る超高速タックルでジャパンのピンチを何度も救っています。若くて、オシャレで、けっこうなイケメンです。おしゃべりもややシニカルなビッグマウスなのは頭が良い証拠でしょう。バラエティ番組なんかで司会がうまく転がすとウケそうなことを言ってくれそうで、この人は人気が出そうな予感がします。

トンプソン・ルーク選手。あの試合、逆転ねらいのスクラムを選択した土壇場で、「歴史を変えるの誰よ!?」と仲間を鼓舞し、「俺たちでしょ!」と言わしめ、フォワードのハートを熱く燃えたぎらせたのがこのトンプソン・ルーク選手です。

ニュージーランドから2004年に来日し2010年には日本国籍を取得した34才。2007年、2011年、今回とワールドカップ日本代表で3度も戦った歴戦の勇士です。足首がねじ曲がっていながらいつでも100%のプレイ。

あの南アフリカ戦を背番号4番に注目して見直してみたら、何度もタックルに行き、倒れても倒れてもチームの決めごとである「3秒で立つ」を常に守り、ひたむきで献身的なプレイを続ける姿にそこまでやってくれるかと目頭が熱くなりました。

近鉄など長く関西のチームに所属していたため日本人と言うより関西人。

南アフリカ戦の直後、「ゴメンナサイ、疲れて、日本語、出てけえへん」と関西弁で話したとラグビージャーナリスト・向風見也氏の記事にありました。

お刺身大好きでワールドカップ中は日本食がないのを心配したとか。仲間から「トモさん」と呼ばれる浪速のオッサンはけっこうテレビウケするキャラのような気がします。

もうひとり、ホラニ龍コリニアシ選手、トンガ出身34才を挙げておきます。厳つい顔にひげを生やした鍾馗さまがピンクのヘッドキャップをかぶったようで、正直ビジュアルは怖い選手です。

1998年に高校の留学生として来日し、体の大きいことを見込まれてラグビーを始めました。外見に似合わずとてもシャイでなかなか日本になじめなかったのを、ラグビーを頑張ることで克服していったとか。

2007年に日本国籍取得し名前に「龍」の字を加えてホラニ龍コリニアシになりました。名前に「龍」、腕には「大和魂」のタトゥーもあるのでコワモテな感じがしますが、「龍」は亡くなった後輩の戒名から「彼の分まで生きよう」と名前に入れたのだそうです。

また礼儀正しさや義理堅さを尊ぶ気持が強く、自分は日本人だという誇りを示すために「大和魂」と腕にしるしたようです。

凱旋帰国の後、ホラニ龍コリニアシ選手がテレビ番組に出演したのを視ましたが、大きな体を小さくして小声で答えるギャップ満点のシャイな姿はとてもチャーミングでした。

あまりにシャイでしゃべりを期待するのは難しいそうですが、意外とテレビでウケるキャラかもしれません。

あの南アフリカ戦で最後に逆転トライを決めたカーン・ヘスケス選手はトップリーグにも上がっていない九州の宗像サニックスブルース所属の選手です。

ヘスケス選手にパスを出したアマナキ・レレイ・マフィ選手はNTTコミュニケーションズ、マイケル・ブロードハースト選手はリコー、アイブス・ジャスティン選手はキャノンと、今回の日本代表には必ずしも強豪チームに所属していない外国出身選手からもたくさん選ばれています。

それだけにスポーツマスコミでニュースになるチャンスが少ない選手も多くいます。

今回、五郎丸歩選手がスターの座に躍り出ましたが、彼に続く二の矢、三の矢はどうでしょう。五郎丸人気があるうちに次々とマスコミ全国区選手を生み出さないとせっかくのブームが終わってしまいます。

ラグビーのオンシーズンは短いのです。もちろん日本人選手に面白いキャラはいますが、日本が大好きでキャラの立つ外国出身選手もたくさんいます。

彼らを関係者やマスコミがスクラムを組んで前へ押し出すのもワールドカップ日本開催に向けてラグビー人気を盛り上げる一手ではないでしょうか。

 

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両角敏明

両角敏明(もろずみ・としあき)テレビディレクター、プロデューサー。 バラエティ、報道、情報、すべての番組を手がけてきた。