エンタメ政治ショーとして米朝首脳会談を描いたNHK「ニュース7」

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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2018年の6月12日の夜7時。NHKにチャンネルをあわせた人の多くは、いかなる立場であれ、トランプと金正恩がどのような共同声明に署名したかを知りたかったからに違いない。少なくとも、バラエティやエンタメを見たくてチャンネルを合わせた人はいないだろう。

しかし、NHKのメインニュース「ニュース7」は、7時から15分もの時間を使って、どちらが先に会談が行われるホテルに着いたかとか、握手の手はどのようにさし出されたかとか、ふたりに笑顔は見られたか否かなどといった、茶番の序曲とも言える政治ショーの進行を克明に描いていた。

そんなことは、どうでもいい。早く本質のほうを見せてくれと思いなが、イライラしながら先を待ったのは筆者だけではないはずだ。

【参考】米朝首脳会談成否は米政府の真摯さにかかる

さて、本題の声明の文書であるが、「トランプ大統領は北朝鮮に体制の保証を提供する約束をし、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化について断固として揺るがない決意を確認した」と記されたという。非核化の時期については何ら言及されていないというが、そのような声明は意味が無い(それなら北朝鮮は過去に国際社会に約束したことがあるが、もちろんそれが守られなかったことは周知のことだ)。

そして、このぬるい非核化の約束に対してトランプ大統領が与えたのは「北の体制の保証」である。体制の保証とはどういう意味なのか? 金家三代の王朝支配をアメリカは保証します、ということか。それともいくら国民の人権が抑圧されようとも、北朝鮮の人民を統治するあなた方のやり方は正しいですよ、アメリカは金家の皆さんを支持しますよ、ということなのか。

もちろん、エンタメ政治ショーになっているNHK「ニュース7」でそのようなことが言及されることはなかった。しかし、このことに敏感に反応したのはアメリカの記者たちだ。合意文書の内容を説明する会見を開いたトランプに厳しい言葉で質問していた。

NHK「ニュース7」にはこの記者会見から番組を始めるくらいの報道機関としての矜恃が欲しいものだ。それでも米朝首脳会談を政治ショーのエンタメとして描こうとしたNHK。これで良いのか。

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