<「たまたま偶然」こそテレビの特性>たまたま見た浅沼稲次郎の暗殺と加藤茶の「ヘン」

テレビ

藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター
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テレビを視ていると偶然「すごいシーン」に出くわすことがあります。「視よう」と思ってチャンネルをあわせていたわけでもないのに、驚くようなシーンを「たまたま視てしまった」経験が最近もありました。
筆者にとって、「偶然、驚くようなシーンをテレビで視た」という最初の体験ははるか昔、1960年10月12日の午後のことです。もちろん、当時の筆者は子どもです。いつもなら学校から帰るなりすぐに遊びに飛び出すのですが、その日はなぜかテレビをつけたのでした。これも、たまたま偶然です。
その時、テレビでは「ある政治家」が演説をしていました。この「おじさん」はよく物真似されているので、子どもの筆者でも知っていました。「ある政治家(=このおじさん)」とは、ガラガラ声の日本社会党・浅沼稲次郎委員長(当時)でした。テレビを見ていると、すぐに画面の右から「コートを着た若い人」がスルスルとあらわれてくると、浅沼委員長に体当たりしたのです。
浅沼委員長はよろけて演壇の後ろに倒れ、若者は何人もの人に押さえつけられました。筆者は、NHKが生中継していた、17才の右翼少年・山口二矢(やまぐちおとや)が浅沼稲次郎委員長を暗殺する瞬間を、たまたま偶然視たのでした。
さて今年、6月半ばのある日のこと。夕食時にテレビの電源を入れたら、「たまたま」ドリフターズの加藤茶さんが映りました。その瞬間、「なんだかヘン」と感じました。「たまたま映った」その番組はNHK総合テレビ『鶴瓶の家族に乾杯』で、20年近く続いている長寿番組です。筆者はそれまで、この番組をただの一度も視たことがありませんでした。
それがその日、電源を入れた時に「たまたま偶然」に映ったのがこの番組で、その瞬間に「たまたま偶然」映っていた加藤茶さんの様子が「ヘン」だったのです。どう「ヘン」だったのかは、後に「たまたま風邪気味だったから」としている加藤茶さんの営業妨害になるといけないので詳しくは触れません。しかし、かなり長い時間、様々なシーンで加藤さんの様子は「ヘン」でした。
もし、筆者がこの番組のディレクターだったとしたら、現場演出や編集で「なんとかごまかせそうなシーン」もありましたが、放送された番組では「容赦なく」という感じで「ヘン」な加藤さんが映し出されておりました。
翌日、ゴルフで出会った友人たちも揃って「たまたま偶然」この番組を視ており、ひとしきり加藤茶さんの「ヘンな様子」話になりました。そしてこの件は、さまざまなマスコミでも大きな話題になったのですが、一度も視たことのない番組を「たまたま偶然」に視ることになって、いきなり出くわした驚きのシーンでした。
「たまたま偶然」に「すごいもの」を視ることになるのも「テレビの特性」でしょうが、残念ながら良いものばかり視ることになるわけじゃありません。往々にして哀しいものや怖いものを視ることになります。だからこそ「私たちのテレビ」なのですね。
さて、最近たまたま偶然視ちゃった国会中継のお話しをまた後日。


 
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