アメトーーク「のび太のパパママ芸人」はドラえもんに依存すべきではなかった?
高橋維新[弁護士]
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2016年3月3日放映のテレビ朝日「アメトーーク」のテーマは「のび太のパパママ芸人」であった。
「アメトーーク」はテレビ朝日の番組であり、「ドラえもん」もテレビ朝日で放送しているアニメである。つまり、ヘタをすると「ドラえもん」の告知まみれで終わりかねないテーマと言える。
ただ、今回は「ドラえもん」それ自体の告知は、最後に劇場版の宣伝がされただけで、控え目だった。告知の弊害はほとんどなかったと言っていい。
逆に言うと、テレビ朝日だからこそ「ドラえもん」のアニメ映像も使い放題なのである。漫画版の絵も、他の局よりは使いやすいかもしれない。この利点を活かして、しっかりと中身を練れば、良いものができあがるはずだ。。
では、実際の番組内容はどうだったか。今回、上記のような利点を活かして中身が練られていたかというと、「そこまででもなかった」というのが正直な感想だ。
今回は、テーマである「び太のパパとママ」のキャラクターや設定を紹介していくのが、番組の主な内容になっていた。
視聴者にあまり知られていない興味深い設定(例えばパパが若い頃画家志望でパトロンを申し出る人がいるほど才能があったとか、ママが若い頃美人だったとか、一家の自宅が借家だとか)を取り扱えば、それは「へぇ~」という感情を呼び起こす知的興奮のエンターテインメントになる。他方でツッコミどころのある設定や場面を取り扱ってそこにツッコミを入れれば、それは笑いのエンターテインメントになる。
放送では、豆知識的なエンターテインメントは、それなりに興味深いところが多々あったが、笑いの方がなんとも中途半端であった。
そもそも「ドラえもん」はギャグ漫画である。若干子供向けにすり寄っているところはあるが、それでもれっきとしたギャグ漫画である。よって「ドラえもん」それ自体が「笑い」の設定をのび太のパパやママにも入れ込んでいる。ママがいったん怒り出すと説教が非常に長くなるとか、パパが忘れっぽいとか、そういうところである。
今回の「アメトーーク」は、「ドラえもん」それ自体が提供しているこのような「笑い」をおもしろいものとして紹介している場面がかなりあり、実際にアニメにおけるママの長い説教やパパの物忘れのシーンが結構な尺をとって放映されていた。
しかし、それをやると、視聴者は「ドラえもん」そのものを見せられて「笑え」と言われていることになってしまう。そうなると、わざわざ「アメトーーク」でやる必要はなくなってしまう。それこそ「ドラえもん」を見れば良い。
「ドラえもん」の、特にアニメは子供向けの番組作りをしているため、そこで意図的に提供される笑いは子供向けの分かりやすいものが多く、「アメトーーク」の主要な視聴者であると思われる「若者」はこれでは飽き足らないだろう。
故に、ただ単に「ドラえもん」を見ているだけなのにそれを面白がる芸人たちも嘘くさく、番組を盛り上げるためにわざと笑っているだろうなというのが透けて見えてしまう。「ドラえもん」をおもしろがる宮迫やバカリズムを見ていると、こちらもどんどんと背筋が伸びて真顔になっていってしまう。
「アメトーーク」で扱うならば、「ドラえもん」本編を見ているだけでは見逃されてしまうようなツッコミどころを扱わなければならない。それはとりもなおさず「ドラえもん」の作り手がウケ狙いで入れたわけではないのにおもしろい箇所である。
ママがなんでもかんでも2階の窓から捨てるとか、一つ目で茶碗と箸を手に持ってご飯を食っている生命体を一目で「アザラシ」と断じ即座にホウキで叩き始めるとか、パパが勤め先の出し物で浮浪者に扮したとか、そういうところである。
番組ではこれらの点に対する言及もあったが、全体としてみれば部分的で番組の端々に散らばっており、散漫だったというのが正直な感想だ。この種の笑いは、作り手が天然で作ってしまった笑える箇所を取り上げて笑うことになるため、どうしても作り手をバカにする要素を含んでくることになる。そのためこの点に対するケアは必要だが、やっぱり、何かをバカにしないと笑いは生まれないのである。
今回の放映では「ドラえもん」そのもので笑いをとろうとした場面が目立ったからこそ、翻って「ドラえもん」そのものを告知宣伝したかったのではないかという疑いも復活してきてしまう。これは、よろしくない。
結局、言いたいことはいつもと一緒である。もっとテーマをバカにして、もっと笑いをとっていきましょうということである。
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