<五輪エンブレム決定後は何をすべきか>全応募作品公開と王貞治公認エンブレムが成功の秘訣


藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)]

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白紙撤回となった前回のエンブレム騒動から8ヶ月。4月25日、東京五輪エンブレムに野老朝雄氏の「A案:組市松紋」が決定した。

筆者は今回のエンブレムに関し、各方面から色々と意見を求められテレビ・ラジオ・新聞などで様々に答えているので、筆者の考えはそれらを参照してほしい。五輪エンブレム騒動や炎上のメカニズムに関しては、拙著「だからデザイナーは炎上する」(中公新書ラクレ)でも、新エンブレム公募の経緯や課題・盲点などを含め説明した。

そこで、本稿では、なかなかテレビや新聞などでは取り上げられない内容について書いてみたいと思う。つまり、「エンブレム決定以後に何をすべきか?」についてだ。

【参考】<なぜ「炎上」は起きるのか>五輪エンブレム選考に見る「日本のデザイナーは勘違いで時代遅れ」

<新エンブレム公募は「オープン」だったか?>

今回のエンブレム公募では、白紙撤回となった前回の反省を踏まえ、早くから「透明性」「オープン」「国民参加」といった謳い文句が強調された。むしろ、透明性・オープン性といったものだけが記憶に残っている感さえある。

その一方で、「本当に透明(オープン)だったか」という疑問は残り続ける。突然の繰り上げ当選という不可思議な現象もある。少なくとも、応募者として参加した人で「オープンな公募だった」と感じている人は少ないはずだ。

筆者も応募者(団体)の一人だが、応募してから決定するまで、審査過程や流れなどが応募者に連絡されることも、それがわかるような明示がされることもなかった。基本的には厳しくクローズだ。

筆者の場合は、埼玉県鶴ヶ島市との組織的な取り組みとして応募したが、市役所経由で聞いても、審査の進捗や状況を教えてくれることはなかったからだ。

もちろん、審査過程を公開できないというようなデザインコンペは多くあるので、それだけをもって閉鎖的と批判はできない。むしろ、当初から過剰に「透明性」と「オープン」を強調したが故に、「ごく普通の公募」にもかかわらず、クローズ疑惑が出てしまった、ということは皮肉だ。

<強調されすぎた「透明性」が炎上要素?>

さて、白紙撤回となった前回の事態を踏まえれば、何が決まっても批判や疑義は出てくる。一部報道にもあるような「A案ありき論」もさることながら、模倣や類似といった指摘も出てくるかもしれない。

よって今回の新エンブレムは、前回の轍を踏まないように、よくよく慎重な対応が必要だ。いくらでも噴出が可能な批判や問題に対して、制作者を含めた運営側がどのような対処・対応をするかが重要になる。

おそらく、一番のウィークポイントは、あまりにも強く強調されすぎた「透明性、オープン性」に対する各方面からの疑義と説明要求だろう。組織委員会は、この疑義に対して積極的に、そして具体的な形としてその「不信感」を晴らしてゆくことが求められる。そうしなければ、予期せぬ「大炎上」へと発展しかねない。

【参考】<最終候補4作品から解説する>五輪エンブレムのデザインに「優劣」など出ない

<応募作品はすべて公開可能だ>

審査では、1万4599件の応募から、形式要件で失格となった3933件を除く、1万666件の作品が、デザイン審査をにより、311件、64件と絞り込まれ、最終候補4件となった。

組織委員会に、「A案ありき論」を含めた批判や疑義を払拭する意思があるのであれば、応募作品すべてをWEBで公開することが最良で最短だ。少なくとも、事務的な要件をクリアしている1万666件に関しては、公開してもなんら問題はないからだ。

応募要項には、応募条件として諸権利・責任に関するいくつかの条件に受諾する明記されているが、その中に以下のような項目がある。

(3)すべての応募作品について、組織委員会は、広報・記録等を目的とした印刷物、Web、展示会等にて無償でこれを使用できるものとすることをご了解いただきます。

(4)応募者には、その応募作品が当該応募者自らが創作したオリジナルの作品であって、(中略)第三者の著作権、商標権、意匠権その他の知的財産権等の一切の権利を侵害するものではないこと、ならびに、それらの違反があった場合には、その一切の責任を負うとともに組織委員会ないしIOC、IPCに一切の迷惑をかけないことを確約していただきます。

つまり、応募者は広報・記録等を目的として、無償で公開されることに同意しており、また、仮に公開後に問題が発生したとしても、その責任は「応募者」にあり、組織員会にもIOCにもIPCにも迷惑をかけない(すべて自己責任)ということに同意をしているからだ。

ようは、応募作をすべて公開しても、組織員会・IOC・IPCなどの関係組織が迷惑を被ることは一切ない。むしろ、それに応募者は反対できない。

すでに諸権利の処理を終了させたエンブレムが決定、公開されたのだから、落選したすべての応募作を公開したところで、何か不都合や問題が発生することはあり得ない。

応募作すべてを公開する障壁がないとすれば「こんな多くの強敵を勝ち抜いた作品である」ということを証明する意味も込めて、およそ1万件の落選作を、Webで公開するべきであろう。

もし、「それはしない」という決定であれば、却って「手続き的には可能なことをなぜしない?」「A案よりも良い作品がたくさんあったのに、やっぱり不正に選んだんだ!」というような不信感や疑義を生むことになるだろう。

本当の意味でオープンにすることが、良からぬ粗探しや悪意ある憶測を生まない唯一の方法であるのだ。

【参考】<キンコン西野に直接聞いてみた>話題の落選エンブレムから見える「東京五輪」の行方

<王貞治氏が選んだエンブレムが知りたい>

一連のエンブレム騒動から、新エンブレム決定。これを東京五輪の成功に向けて、疑義や不信感を払拭し前向きに進めて行くためには、応募作全公開による「本当の透明性」を証明する以外に、もうひとつ重要なポイントがあると考えている。

それは、エンブレム委員・王貞治さんが自らの好みで選んだ「王貞治公認エンブレム」を発表する、ということだ。

分野横断で集められた有識者による「エンブレム委員会」とデザインの専門家による「審査員」という2段階の審査がなされたことは意外と知られていないが、実は多くの国民にとってはあまり関心のないことかもしれない。

なぜなら、多くの国民にとっての今回の審査での関心事は、やっぱり「王貞治さんが何を選んだのか?」であるからだ。もちろん、大人である王さんは「私もA案です」と言うかもしれないし、素直に「最終候補4案」のうちのいづれかを提示するだろう。

しかし、多くの人は、様々の規定や制約の元に組織的に検討されたエンブレムではなく、五輪エンブレム前提の細かいルールを取っ払い、「王さんの個人的な趣味」で選ばれたエンブレムが知りたいはずだ。

少なくとも第一次のデザインチェックをクリアした311件に関しては、王さんが多少時間をかけても良いので、再度確認して「王貞治公認エンブレム」を選び出してほしいと思う。もし、本当に「最終候補4案」のどれかを選んだのだとすれば、それ以外の307件から、一切の条件や制約を気にかけず、お気に入りのエンレブムの選び、それを公表してほしい。

<「王貞治公認・五輪応援エンブレム」の可能性>

もちろん、それは五輪の公式なコンテンツではない。だからこそ、自由に利用できる可能性も有する。「王貞治公認・五輪応援エンブレム」として、スポンサー企業や行政が製作者と交渉をして、利用権を確保しても良いだろう。実現すれば、五輪エンブレムではなく、企業や組織が自主的に作っている応援エンブレムと同様で、なんら制約はない。

「王貞治公認・五輪応援エンブレム」が何であれ、それが展開する商品やサービスは大きな注目と売り上げを生むはずだ。もしかしたら、自由度が高い分、公式エンブレムよりも魅力的なコンテンツになるかもしれない。その可能性は計り知れない。

例えば、その売り上げを、東日本大震災・熊本地震の復興支援として寄付したり、五輪マイナー競技の選手支援や、パラリンピックの支援団体などへの資金援助に利用してはどうだろうか。エンブレム公募という大事業の成果物のひとつとして、大いに価値がある試みだと思う。

<透明性とオープン性の証明はこれから>

透明性やオープンという言葉を使うのはたやすい。

しかし、それを実際に国民に体感してもらうためには、具体的なアクションが不可欠だ。誠意や説明などはほとんど意味がないし、「webで情報提供しています」という程度のことが、透明性の担保にならないことぐらいは、誰もが知っている。

「応募全作品の公開」と「王貞治公認・五輪応援エンブレム」はぜひ試みてほしい。もしかしたら、決定したA案かそれ以上に多くの国民から、前向きで建設的な関心を持たれるはずだ。東京五輪の盛り上がりに、一役も二役も買うだろう。

理論的にも実務的にも難しくはない。もし、それが無理であるとすれば、「透明性」と「オープン」を強く表明している以上、組織委員会・エンブレム委員会には、それが無理である理由を説明する義務がある。

透明性とオープン性、国民参加の証明は、エンブレムが決定するまでの仕事ではない。むしろ、エンブレムが決定して以降にこそ、本当に始めることができるはずだ。

 

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藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『だからデザイナーは炎上する(中央公論新社)』『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。