<ヒューマンライブラリー(人間図書館)が話題>障害者、セクシャルマイノリティ、在日、ホームレス…「生きている本」

社会・メディア

小林春彦[コラムニスト]
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「ヒューマンライブラリー」(人間図書館の意。人を本に見立てて読者に貸し出す試み)が、日本で初めて開催されたのは2008年のこと。
障害者やセクシャルマイノリティ、依存者、在日国籍、ホームレスなど日ごろ偏見の目で見られやすい生身の人間が本の著者(語り手)という立場をとって話をし、その図書館への来場者が読者(聞き手)となって相互理解を目指すという2000年にデンマークで始まった取り組みが、「ヒューマンライブラリー」だ。
この図書館でのルールは「本を破らない・本に書き込まない・本を持ち帰らない」というもので登場する本(ヒト)の安全が約束される。
現在では全国各地で開催され、大きな広がりを見せつつある。筆者も高次脳機能障害という「外見から見えない困難を抱える当事者」として、この取り組みに何年も「生きている本」として出演をしている。
人間のデリケートな部分を扱うこのイベントについて、「ヒューマンライブラリー研修会」が明治大学中野キャンパスで先日行われた。主催したのは、異文化間教育学会。近年は大学のゼミ生が主体となって、多様性理解を目的にこのイベントを開催することも多い。
この図書館を運営する学生たち、聞き手となる本の読者、語り手の本となる社会的少数派の当事者に、それぞれどんなリスクやメリットがあるのか等の議論や事例の紹介があった。
たとえば来館したある社会人はホームレスの話を聴き、「彼らが求めているのはお金」と考えていたが、「実は人とのコミュニケーション」だと知った。こちらからは話しかけづらいので声をかけてほしいと、ホームレスは語ったそうだ。
【参考】<障害者差別解消法って何?>障害者が「配慮する側」にも「配慮される側」にもなる
また運営する学生たちも多感な思春期。家族内問題であったり友人関係での悩みなど、様々な課題を抱えている。そんな彼・彼女らにとって、マイノリティからの自己開示が人に言いづらい自分の問題と共鳴し、ゼミ仲間の友人に自分の悩みについて腹を割って話すことができた、ということもあったという。
そしてこのライブラリーを開催する日、一堂に会した「本」同志が書庫と呼ばれる控室などで熱心に語り合っている姿もみられる。すると、それぞれ自分たちの分野で抱えている生き辛さが客観的につかめ、横の繋がりもできる。こうした経験によって普段スポットの当たらない当事者が、さらにいい「本」へと進化することもある。
筆者自身、この取り組みに日本で初めて開催されたときから、カンファレンス、企業、教育機関など様々な場所に出演してきた。運営からも読者からも他の本からも、「自分が普段どのように見られており、どう言葉に落とし込めば相互理解に至るのか」といったこと様々な角度から考えさせていただいたと感じている。
ちなみに、次回の都内での開催は11月27日(日)明治大学中野キャンパスとのこと(主催は明治大学国際日本学部横田ゼミ・入場無料)。
専門書あり、週刊誌あり、漫画本あり。フェイス・トゥ・フェイスの顔と顔を突き合わせた個室での対話から新しい気付きが得られるかもしれない。
 
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