この世には「居場所のある人」と「居場所のない人」がいる


茂木健一郎[脳科学者]

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学会でサンディエゴに行った。それで、初めてウーバーを使ってみたり、レストランの人と話したり、いろいろな雑談をしたのだけれども、その過程で、トランプさんが大統領になろうとしている米国のあれこれが、肌で感じられた。

サンディエゴはメキシコ国境に近く、メキシコから来ている方々もたくさんいらっしゃる。その方々とお話していると、トランプさんが政権をとるということが、非常に重大かつ実際的な問題として感じられているということがわかって、ひりひりとした。

人は、どんな時に住んでいる場所を移動するのだろうか。メキシコ側の一日分の賃金が、米国の最低賃金とほぼ同じなのだそうだ。だから、そのような経済的な理由で、米国側に行きたいという気持ちを強く持つ人も出てくるだろう。

また、別の事情も見聞きした。

ウーバーの運転手さんなどの中に、アフガニスタンやウクライナから移住して来た、という方がいたが、それぞれ、ソ連のアフガニスタン侵攻、そしてソ連邦の崩壊がきっかけだったという。話しているうちに、そのような事情がわかってきたのだ。

人は、世界史に残るような激動において、住む国を変えることがある。その時、「居場所」がある人と、「居場所」がない人との間に非対称性が生まれる。トランプさんの問題は、結局、そこにあるように感じる。

ニューヨークの巨大な不動産の最上階に住み、移動もプライベートのジャンボジェットの人に、居場所がなくて国から国に行かざるを得ない人の気持ちは、よほどの知性や共感能力がなければわからないだろう。サンディエゴで私が話した人たちの世界から、トランプさんは星雲くらい遠く見えた。

この世には、居場所のある人とない人がいて、居場所のある人がない人を差別することはしばしばあるが、さらに、居場所がある人が、自分の居場所が脅かされるのを感じて、居場所のない人を排斥しようとすることもあるのだと思う。トランプ現象の本質はそこにあると、カリフォルニアで感じた。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。