<作り手の自己満足?>NHK調査報道のナレーターに有名人を起用する無駄遣い

テレビ

メディアゴン編集部
***
NHKスペシャルで「追跡 パナマ文書  衝撃の日本人700人」(2016年11月27日)は見応えのある金のかかった調査報道であった。NHKの番組ホームページには以下のようにある。

「史上最大のリークといわれ世界に大きな衝撃を与えた「パナマ文書」。これまで知られてこなかった“新たな事実”が、いま明らかになろうとしている。」
「パナマにある法律事務所の内部文書のリークから始まった「パナマ文書」報道。国際調査報道ジャーナリスト連合・ICIJに持ち込まれ、加盟する107社(80か国)、400人のジャーナリストたちがそれぞれの国で取材、ロシア・プーチン大統領や中国・習近平国家主席など、権力者やその親族の資産運用の実態を暴き、空前の大スクープとなった。」
「NHKは、今年6月ICIJのプロジェクトに参加、新たに日本関連の膨大な文書の存在が明らかになってきた。どのような人たちが、どのような理由で、「パナマ文書」に名前が載るに至ったのか。番組では、一つ一つのケースを詳細に取材し、これまで知られてこなかった「パナマ文書」と日本との関わりを明らかにする。」

取り上げられるのは以下の人たち。
* 漫画「キャンディキャンディ」の作者・いがらしゆみこ氏は、個人情報を流用されてタックスヘイブンに自分名義の会社を作られた。
* 浅川和彦被告は、AIJ投資顧問の元社長。厚生年金基金からの預かり資産約2100億円の大半を消失させた。詐欺容疑で告訴され、15年の懲役の実刑判決を受け、現在収監中。彼は、ペーパーカンパニー2社をタックスヘイブンに持っており、否定しているが、消失した運用資産を隠すのに利用しているのではないかと疑われている。。まだ、消えた年金がどこかに残っているのではないか。捜索は続く。
* パナマ文書に載っている日本人名700人のうち、7人に奇妙な共通点があった。現住所として携帯電話の請求書が偽造された。レンタルパソコン借用のときに提出したパスポート情報が勝手に使われた、そして、中米アンギラにペーパーカンパニーの設立者として名前が盗用されたのである。あきらかな情報流出の被害である。
これらを防ぐにはどうするか。残念ながら必要なのは法による規制である。ただし、タックスヘイブンには今回登場するジャージー党のように英国王室属領である島も含まれ、法規制は一筋縄ではいかない。
世界の多数の国が参加するそれこそグローバルな規模での国際金融取引税の導入などが必要だろう。経済をグローバル化する前に、いや、世界の首脳が経済のグローバル化を目指すなら、そこに起こりえる富裕層による様々な強欲資本主義や、犯罪者集団によるマネーロンダリングを防ぐために、国際金融取引税の導入など、金融規制のグローバル化が必要だと思われるのである。
さて、番組の作り方について気になった点がある。
ナレーションは俳優・松重豊氏であったが、公共放送NHKとして松重氏起用の費用対効果はいかがなのものであったのか。
論理としては「出来るだけたくさんの人に見て貰うために耳なじみのある松重豊氏を起用した」という公式見解が帰ってくるのは目に見えている。費用対効果というようなセコい言葉は使わぬことにして申し上げると、松重氏起用でより多くに人が番組を見てくれたかというと、「それはない!」と言いきれる。視聴率もそれでは上がらない。
ドキュメンタリ現場の人で、著名人ナレーターの起用を主張する人が時にいらっしゃる。だが、これは、ほとんどが自分の作品にたいしての自己満足にすぎないのではないか。
1980年代に放送された『NHK特集 シルクロード』は、石坂浩二氏をナレーションに起用したことですぐれた紀行文学にまで昇華したが、今回の「追跡 パナマ文書」はそういう意図を持った番組ではあるまい。
つまり制作者の自己満足として、俳優・松重豊氏を起用し、ギャランティ(受信料)が使われただけなのである。
 
【あわせて読みたい】