<仕事を生活の手段にすると苦痛>人生を手段ではなく目的として扱え


茂木健一郎[脳科学者]

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チクセントミハイの「フロー(時間が経過するのを忘れるような状態)」で最も大切なことの一つは、行為そのものが報酬になるということである。つまり、その行為の結果、何らかの報酬が得られるということがポイントなのではなく、何かをすること自体がうれしくなる。

人生の時間、その中ですることが、何かの目的のための手段になってしまってはもったいない。哲学者カントは、人間を手段ではなく目的自体として扱えと言ったが、同様に、人生は手段ではなく、目的自体としなければならない。そうでないともったいない。

勉強にせよ、仕事にせよ、その営みを手段だと考えると時に苦しい。勉強を入試に受かるための手段としてとらえると、もし落ちてしまったら虚しくなる。仕事を生活のための手段と考えると、働いている時間が時に苦痛になってしまう。

【参考】脳科学者が考える「To Do List」を使うべきではない理由

入試のための準備、ということを離れて勉強自体が楽しい、生活の糧を得る、という目的を離れて仕事自体が楽しい、というフローの境地に達することで、延々と続く生きる時間そのものが「蜜の味」になる。それが、幸せへの道である。

チクセントミハイのフロー概念で最も重要なポイントは、行為を手段ではなくそれ自体を目的とした時に、パフォーマンスも学びも最大になるということ。つまり、逆説的だが、目的を考えない方が目的もより効率的に実現できるのである。

目標というものに縛られるとかえって質が悪くなるのは、芸術作品においても同様である。焼きものなどが昔の名品のようなものができない理由は作家の自意識が強いからともされるが、フローの没我こそが、質の向上につながると知るべきであろう。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。